運動するほど基礎代謝が落ちる!? 最新研究でわかった「本当にやせられるダイエット」とは......
運動量と消費エネルギーはどう関係しているのか
【神話】
運動によって基礎代謝が上がる
前項で運動すると基礎代謝が低下したという事実を知っても、まだ信じられないあなた。運動によって筋肉量を増やせば、基礎代謝が上がり、体重が減ると信じるからこそ、家の周りを走り、ジムでトレッドミルに乗り、筋トレに励むのではなかったか。運動によって基礎代謝が上がるはずと皆が信じてきたが、これに疑問符がついている。
【科学的検証】
ウソである。
ヒトの代謝について、これまでの考え方を抜本的に考え直さねばならなくなったようである。2012年のこと、新しいアイディアが提案された。これは、ニューヨークにあるハンターカレッジの人類学者ハーマン・ポンツァー教授(現在、デューク大学)のグループが発表したもので、体を動かしても動かさなくても、消費エネルギーの総量は変わらない、という。
今、このアイディアは、世界の代謝研究に強い影響を及ぼし始めている(*5)。ポンツァー教授のグループが、どのようにしてこのアイディアに到達したかというと、ハヅァ族の生活様式、基礎代謝量、身体活動、消費エネルギーを調査して得た結果からである(*6)。
(*5)Pontzer H et al. Hunter-Gatherer Energetics and Human Obesity. PLoS ONE 2012. 7 (7): e40503.PMID: 22848382
(*6)Pontzer H et al. Constrained Total Energy Expenditure and Metabolic Adaptation to Physical Activity in Adult Humans. Curr Biol. 2016 February 8; 26(3): 410-417 PMID: 26832439
運動量に関わらず消費エネルギー量は一定だった
ハヅァ族は、東アフリカにあるタンザニア北部のサバンナに住む先住民族で、何千年もの間、基本的な生活様式をほとんど変えることなく生きてきた。彼らは車や銃などの助けを借りず、弓、小さな斧、棒を使い狩りをする。今も活発な狩猟採集生活を営むハヅァ族は、食料を得るため、毎日、ランニングを2時間、ウォーキングを数時間行っている世界でも数少ない民族である。
ポンツァー教授のグループがハヅァ族の生活様式、基礎代謝量、身体活動、消費エネルギーを西欧文明社会に住む人々と比較したところ、基礎代謝と活動代謝による消費エネルギーの総量は、あまり体を動かさずに生活している私たちのそれとほぼ同じであった。
驚きの事実が明らかになった。体を動かしても動かさなくても、長期的には同じだけのエネルギーを消費する。「消費エネルギーの総量は一定」という、この事実をどう説明するのか。そこで、こんな仮説が立てられた(*6)。
ハヅァ族は食べ物を捕獲するために、毎日、野原を走り回って大量のエネルギーを消費するが、彼らの体は、この過剰な分を成長など他の生理的な活動を抑えることによって帳尻を合わせている、と(制限的モデル)。身体活動でエネルギーを大量に消費する分を、背丈を伸ばさないことによって抑えているという説明である。これでハヅァ族の人々が細身で引き締まった体つきであること、とりわけ小柄であることも納得できる。