最新記事

ヘルス

現役医師が断言「血液型と性格は関係ないし、自分の血液型を知る必要もない」

2023年1月7日(土)12時00分
名取 宏(内科医) *PRESIDENT Onlineからの転載

だから、A型の人にB型の血液を輸血すると、A型の人が持つ「抗B」抗体が、B型の赤血球の「B抗原」と反応して、赤血球が壊れるといった重大な副作用が起こります。だから、輸血は血液型を合わせて行います。

図表1 血液型と抗原と抗体

血清に含まれる抗体は生後半年以降に作られる

生まれたての赤ちゃんの免疫系は血清に含まれる抗体「血清抗体」を作れませんが、生後半年〜1年くらいで作れるようになります。たとえばA型の赤ちゃんは、抗Bという血清抗体を作るようになるわけです。このことを知った時、私は不思議でなりませんでした。B型の血液を輸血されていないのに、なぜB抗原に対する抗体が作られるのでしょうか。

これは赤血球に含まれる抗原「赤血球抗原」に似た抗原を持つ病原体がいるためです。A型の赤ちゃんに「B抗原と似た抗原を持つ病原体」が感染すると、免疫系は防御反応として抗B抗体を作ります。AB型とB型の赤ちゃんは抗B抗体を作りませんが、細菌にはB抗原以外にも多くの抗原がありますので免疫は働くものの、A型やO型の赤ちゃんと比べると「B抗原に似た抗原を持つ病原体」に対しての免疫の働きは少し弱いかもしれません。

A型の人が新型コロナに感染しやすいのが事実だとすると、A型の人が持たない抗A抗体が関係しているのかもしれません。新型コロナウイルスにはA抗原に似た部分があり、抗A抗体がウイルスにくっついてA型以外の人の感染を妨げている、といった仮説が考えられます。ただし、それほど単純なことではありません。抗体だけに注目すると、抗Aも抗Bも作るO型が一番感染症に強いはずですが、ノロウイルスに対してはそうではないようです。実際の血液型と感染症の関係は複雑だからこそ、多少の関連はあったとしても、その影響は小さいのです。

血液型の分類はABO式だけじゃない

血液型の分類の仕方には、ABO式以外にも何十もの種類があります。有名なのは「Rh血液型」ですね。昔から病気との関連では、白血球の血液型(ヒト白血球抗原)が研究されています。ある種の自己免疫性疾患とヒト白血球抗原の関連はきわめて強く、特定の白血球抗原を持っていると、病気のリスクが数倍や数十倍上昇することもめずらしくありません。ヒト白血球抗原は骨髄移植の治療成績にも影響します。こうした観点からも、何十種類もある血液型の分類中でABO式だけが特別に性格に強い影響を与えるという考えには疑問を持たざるを得ないのです。

そして医学的には、自分の血液型を知っておく必要はありません。あえて言えば、「O型の血液が不足しているので献血を」といった呼びかけに対応する時くらいでしょうか。日本では血液型人間学の影響もあってか、赤ちゃんの血液型を知りたいという保護者も多いそうです。でも、前述したように新生児は血清抗体を持っておらず、赤血球抗原の量が少なく、母体由来の血清抗体を持っていることなどから血液型の検査は不正確です。たまに「生まれた時と血液型が変わった」なんて話を聞きますが、血液型は遺伝的に決まっていて骨髄移植でも受けない限り変わりません。出生時の検査が不正確だっただけだと思われます。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中