シニア男性の死亡リスク、独身は既婚より2~3倍高く 幸福感を左右する存在とは?
ただし、ここには地域差もあって、都市部よりも農村部の方が、引退後の男性たちは地域参加に熱心だという。楠木新『定年後──50歳からの生き方、終わり方』(中公新書、2017年)によれば、東京と地方の定年後はライフスタイルが異なる。地方においては、農作業や自治会の役員など、定年後もいろいろな役割があるが、都会ではそうではない。都会では会社組織を離れると社会とつながる機会がとても少なくなる。
高齢男性たちはなぜ幸福を感じにくいのか
以上をまとめると、次のようになる。
・男性の幸福度は、会社での労働に強く依存している。
・しかしそれは、家庭における妻の存在、つまり「配偶者のケア、家事負担」に大きく支えられている。
・育児・家事・介護のスキルを身につけていない人が多い。
・社会的・市民的義務(ボランティアなど)を軽視し、仕事以外の人付き合いを避けてきたため、地域社会とのつながりも弱い。
これらの要素が退職、熟年離婚、妻との死別などをきっかけとして、高齢男性を急速に孤立へと追いやっていく。
高齢男性の自殺は、労働問題や経済問題のみならず、孤立が要因であることが多いと言われる。男性が理想とするライフスタイルとは、男性稼ぎ主モデル+妻依存に大きく傾いているのである(子どもや孫の存在は、統計的には必ずしも大きくない)。
そして、もちろん中年男性や若い男性にとっても、ここまで確認してきたような高齢男性の孤独感は、決して他人事ではない。
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ)
批評家
1975年生まれ。自らのフリーター経験をもとに『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)を刊行するなど、ロスジェネ論壇に関わった。ほかの著書に、『非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か』(集英社新書)、『宮崎駿論』(NHKブックス)、『男がつらい!』(ワニブックスPLUS新書)など。『対抗言論』編集委員、「すばるクリティーク賞」選考委員も務める。