だまし絵、塗り絵、セルフ絵画展──家庭で育む子どもの「アート思考」
無理に「何か」を見出そうとせず、子どもの世界を尊重する姿勢が大切(写真はイメージです) kyonntra-iStock
<「非言語的なものにどれだけ触れているか、が子どもの感性を育む上で重要だ」と多摩美術大学特任准教授の佐宗邦威氏は言う。身近なツールですぐに実践できるアート思考の育て方とは>
「アート思考が大切」「アート思考を育もう」と、ビジネスシーンから教育現場に至るまで「アート思考」というワードを耳にする機会が増えていないだろうか?
もし「クリエイティブな職業ではないから自分には無関係」と思っているのならば、それは思い違いだ。目まぐるしく進化し続ける現代においては、今まで主流だった論理的思考ではなく、常識にとらわれない考え方や柔軟な発想力が求められている。生き方に「決まった正解」がなくなった今日、創造性に富んだ子どもを育てたいと考える親は少なくないはずだ。
そんな中、だまし絵で子どものアート思考を育む絵本『くるっと だーれ?』(かしわらあきお著・主婦の友社)が注目を集めている。今そのような考え方が求められる理由、子どものアート思考を育む方法について、多摩美術大学特任准教授で、子どもアートプロジェクトにも携わる佐宗邦威氏に聞いた。
――最近よく耳にする「アート思考」という言葉ですが、その定義を教えてください。
これだけ世間でよく耳にするようになった言葉ですが、実はまだ合意された明確な定義はないように思います。アート的な思考について、私自身は「ビジョン思考」と呼んでいます。妄想からスタートして自分の世界観を知覚しながら具体化し、さらに自分なりに組み替え、表現するというサイクルです。
アーティストに限らず、実は起業家や開発者など、「今までにない仕組みを構想する人」は誰しも最初に似たようなプロセスを踏むものだと思います。
――なぜ「アート思考」が注目されるようになったのでしょうか?
ビジネスの世界ではこれまで、最初から正解を求めるようなプロジェクト、つまり左脳的な論理的思考がメインストリームでした。
しかし、今の時代は「1人ひとりがつながってしまい、相互に影響を与え合うことで予測もつかない変化が生まれる世界」に投げ込まれている状態だと思うのです。そんな社会においては論理的思考ではうまく立ち回れないことも多く出てきています。「それはあなた個人の考えだろう」と足蹴にされていたアイデアこそが、結果的には世の中を動かし、変えるようなエネルギーを持っているケースが珍しくありません。
洞察力のある人たちは、現代社会が「表現したもの勝ち」という潮流にシフトしつつあると気づき始めています。だからこそ、「アート的なものの見方」は今急速に見直されているのです。