最新記事

日本社会

なぜ日本の富裕層のインテリアはダサいのか? 急成長する家具チェーンの社長が考える根本原因とは

2022年9月11日(日)12時00分
北村甲介(リビングハウス代表取締役社長) *PRESIDENT Onlineからの転載

インテリアのショールーム

写真提供=リビングハウス

あなたは、今のソファが古くなったので、新しいソファを購入するため、お店に訪れました。入店すると、まず店員が声をかけに来ます。「何をお探しですか?」からはじまり、サイズやデザイン、予算の希望などを質問してきます。それを基に、候補をいくつか挙げて、その特徴やこだわりについて、詳しく説明してくれます。例えば、座り心地の秘訣が羽毛にあることや、肌触りが良く丈夫なのは、革のなめし方にこだわりがある、といったようなことです。

さて、この販売の何が問題なのか、お気づきでしょうか。ずばりこれは、「ソファ」そのものに焦点を当てた、「点」の売り方なのです。つまり、住まいの空間や、そこでの調和を意識することなく商品を提案しているということです。

家具メーカーでは、いまもこうした売り方が主流だと思います。「問題」とは言いましたが、実はそれがダメなわけではありません。商品自体を知り尽くし、そのよさをきちんと伝えるということは確かに大切です。ただ、ぼくが言いたいのは、そういうやり方では、家具を買ったその先にある、「空間」の価値を高めることには必ずしもつながらないということです。

求められているのは"モノ"を売ることではない

配送員からはじまったぼくの家具屋人生ですが、前述のような問題意識の下、2011年、父から家業を引継ぎ、「リビングハウス」の3代目の社長に就任しました。

これまでお話ししてきたように、残念ながら、日本人の多くは「家を飾る」、「住みこなす」感覚に乏しいと言わざるを得ません。そもそもおしゃれな家に住んだ経験がないし、どうすればより良い空間をつくれるのか、その知識もない。

そういう中で、売り手に求められているものは何なのでしょうか。それは、「家具」という「モノ」を売ることではなく、モノを通して、その先にある住まい空間の価値を高める提案ができることです。

どういうことなのか。ぼくたちが日々どのようにお客様と向き合っているのか、その例をご紹介したいと思います。

たとえば、椅子を買いたいというお客様が来店されたとします。「しみがついたから買い替えたい」のだそうです。「せっかくだから、前よりもすてきな椅子がほしい」と。

一般的な家具屋であれば、お客様が求めている椅子をご提案して、それで終わりかもしれない。これは椅子Aから、椅子Bに変える、いわば、「点」としての家具の提案です。でも、ぼくたちの目指しているものはそうではありません。

リビングハウスが目指しているもの

さらに質問を重ねます。「椅子を使って何をするのか」「どんな空間に置くつもりなのか」、ヒアリングを重ねていくと、次第に椅子の先に思い描いている"くらし"が見えてきます。たとえば、「1日のなかで、唯一家族と一緒に過ごせる夕食を、楽しく囲んでいる」というような情景です。

どうすればその時間や空間を、より特別なものにできるのか。これをご提案するのがぼくたちの仕事です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中