最新記事
ヘルス

男性の平均寿命トップから36位へ 沖縄があっという間に「短命県」になったシンプルな理由

2021年9月21日(火)18時42分
家森幸男(京都大学名誉教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

※写真はイメージです iStock.com/Junki0110


かつて沖縄県は「平均寿命全国1位」だったが、直近では女性が7位、男性が36位と大幅に悪化している。京都大学名誉教授の家森幸男さんは「沖縄県の平均寿命が長かったのは、塩分量が適切で脂も少ない伝統的な沖縄料理を食べていたから。米軍基地の影響などでファストフードを食べるようになってからは、健康診断の結果も悪化していった」という――。

※本稿は、家森幸男『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

かつては平均寿命全国1位の"長寿県"だった沖縄

長寿地域の崩壊のひとつとして、残念ながら日本の沖縄県があります。かつて「沖縄」といえば長寿県として知られました。

1975年の統計以来、沖縄の平均寿命は女性が全国第1位とトップを維持し、男性も80、85年には1位と、一貫して上位を守り続けてきました。1995年には大田昌秀知事(当時)が「世界長寿地域宣言」を出すに至っています。

メディアはこぞって伝統的な食事、温暖な気候、おおらかな県民性など、「沖縄の長寿の秘訣」を探ったものです。まず沖縄では豚肉がよく食べられていることが知られます。肉だけでなく、内臓や頭部分(皮)、耳、豚足など、1頭を丸ごと食べつくします。

内臓は鉄分やミネラルが豊富ですし、皮にはコラーゲンがたっぷり含まれています。しかもどの料理もいったんゆでてから使うため、余分な脂肪分は取り除かれ、上質なたんぱく質を摂取することができます。

さらに、豆腐とゴーヤを炒めたゴーヤチャンプルー、豆腐ようなど、大豆を使った料理がひじょうに多いのも特徴です。豚肉と大豆によって、日本のほかの地域では不足しがちな良質のたんぱく質をしっかり摂っていたのです。

また温暖な気候にある沖縄では新鮮な野菜や果物が豊富に取れます。ゴーヤを使ったゴーヤチャンプルー、パパイヤを使ったパパイヤイリチー、ニンジンの炒め物など、野菜を使った料理も多くあります。

80年代まではお手本のような食生活を送っていたが...

さらにすばらしいのは、こうした料理がすべて「適塩」であることです。減塩食というと、病院の食事のように「味気ない」「物足りない」というイメージがあるかもしれませんが、沖縄の伝統食は「適塩」で、かつ「おいしい」を両立させているところがすばらしいのです。

沖縄は暑いところですから、豚肉などは保存のために塩を使います。しかし、それを塩抜きするために茹でて食べる習慣があり、その際に脂肪が抜けて、脱脂肪、減塩効果がある、すばらしいソーキそばのような伝統料理が育ったのでした。

こうした伝統的な料理を食べていた時代、沖縄の人たちの健康状態はひじょうに良好でした。私たちは1986年から長く沖縄に通い、琉球大学の協力を得ながら、沖縄の人の食生活を調査してきました。

琉球大学にも協力してもらって、24時間の尿採取をしたところ、食塩の摂取量は8.2グラム。1986年当時、日本人は10グラム以上の食塩を摂取していましたが、その中にあっては最も低い数値でした。

さらにコレステロール値も優秀。血液100ミリリットルあたり、平均180から200ミリグラムでした。これはもう世界的に見ても理想的な数値でした。まさに世界に誇る長寿地域だったのです。

異変は2000年に起こりました。

最新の調査では男性36位、女性7位と大幅に下落

男性が前回の4位から26位と大幅に後退してしまったのです。さらに2010年には男性は30位、女性はトップを長野県に譲って3位となってしまいました。長寿を誇った沖縄の凋落のニュースは驚きをもって伝えられました。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中