最新記事

日本社会

「汚部屋そだちの東大生」女性作者の壮絶半生 母親の影響を抜け出すまでの日々

2021年4月17日(土)12時12分
村田 らむ(ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター) *東洋経済オンラインからの転載

「自分の家はおかしい」と気づいていなかった

東大生になっても母の束縛はとけず、ゴミ屋敷から学校に通った。

しかし、そんな状態になってもまだ、具体的に自分の現状を把握することができなかったという。

「大学から家が近かったので友達と歩いて帰ることがありました。友達に『トイレ貸してくれない?』って言われたことが何回かあったんですけど、家には上げられませんでした。

ただ当時の私は『家が汚部屋だから上げられない』と思ってるわけではないんです。抽象的になんとなく『人を家に上げてはいけない』気がする、というような感じでした。具体的に『自分の家はおかしい!!』とは気づいていませんでした」

大学生になっても、母親の人間関係のチェックは続いた。少しクラスメイトの話をするだけで、

「育ちが悪そう。その子と結婚しちゃダメよ!!」

などと注意をした。

「携帯電話や手帳は勝手に見られていたので、スケジュールや人間関係は親に筒抜けでした。

結局母親が交際してもいいっていう男性はいませんでした。母親世代にとってどれほど"高スペック"な男性でもダメだったので、誰であろうとダメだったでしょうね」

働きだして少しずつ自分を客観視するように

『汚部屋そだちの東大生』では大学を卒業すると同時に家を出たことになっているが、実際には就職後も家は出られなかったという。

「就職先は今も働いている出版社を選びました。理由は本が好きだったからですね。就職に関しては親とたまたま意見があったので、あまりもめませんでした」

会社は、当たり前だが家よりも清潔だった。机と椅子があり、給湯器があっていつでも温かいお茶も飲める。

「『快適だ!!』って思って、朝早く会社に行って、残業してから帰りました。出張も積極的に行きました。家ではボコボコのところで身体を折り曲げて寝てましたから。『ホテルのベッドはなんて平らで寝やすいんだ!!』って感動しました」

汚部屋に住んでいる弊害も出た。

脱いだ服をそのまま地べたに置いて

「服、落ちてるよ?」

と言われることもあった。ハミ山さんにとって、地面に服を置くことはごく自然なことだったのだ。

「机の周りもすぐに散らかっちゃうんですね。書類もすぐになくしてしまう。

『みんなできているのに、なんで整頓できないんだろう?』

って考えてみて、

『そうか、そもそもやったことがないからか』

と気づきました」

ハミ山さんは給料をすべてそっくり母親に渡していた。学生時代にアルバイトしていたときからずっとそうだったし、母親にお金を渡すことにハミ山さんはなんの疑問も持っていなかった。

「自分がいくら稼いでいるのかすらまったく知りませんでした。はじめて違和感を持ったのは、初任給が出たときでした。新入社員たちがみんなで

『初任給が出たら何買う?』

みたいな話をしてました。それを聞いて

『初任給で買い物するってどういうことだろう?』

と思っていました」

ある日、大学時代の先輩に

「給料は貯金するつもり?」

と聞かれた。ハミ山さんは、

「いえ、お金のことは親にまかせているので......」

と答えると、先輩は顔を曇らせ

「え? それは気持ち悪いよ」

と言った。

「先輩もかつて親子関係に問題を抱えていた人だったので、"変さ"に気がついたみたいでした。そんなふうにいろいろな人のおかげで、少しずつ自分のことを客観視できるようになってきました」

しかしそれでもハミ山さんは具体的に家を出ようとは思っていなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ムーディーズ、サウジ格付けを引き上げ 脱石油依存政

ワールド

化石燃料「貧困解決の鍵」、気候変動重視せず=米エネ

ワールド

豪当局、厳格な住宅ローン規制維持 雇用市場減速を警

ワールド

台湾の北に中国気球1機、半年ぶり飛来=国防部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中