「汚部屋そだちの東大生」女性作者の壮絶半生 母親の影響を抜け出すまでの日々
そしてついに家を借り独立
「親しくしていたグループ内に世話焼きの人がいて『家を出たら?』と言ってくれました。でも私は『そんな、まさか~』みたいな感じでした」
その人は部屋が汚部屋であることよりも、母親に危機感を持ったようだ。
「お金はすべて母親に渡している」
という話を聞いて、
「それは、本当に家を出るしかないよ」
とシリアスに言った。そして何人かの友人がハミ山さんと一緒に賃貸物件の内見に付き合ってくれた。
「そのときはじめて
『アパートってこれくらいの値段で借りられるんだ!!』
って知りました。それで、そのままの勢いで家を借りちゃいました」
社会人2年目の冬だった。
借りた家に、母親にバレないように少しずつ荷物を運ぶことにした。
父の形見や、生活に必要な最低限のものをトランクにつめ、都バスに乗って新居に移動させた。運び終えると、何食わぬ顔で家に帰った。
そして、ある日スッと引っ越した。
「短い別れの言葉を書いた置き手紙を洗面台の上に置いておきました。それは母に最後に伝えたいことがあるからではなく、置き手紙をしないと失踪人として警察に通報されてしまうかもしれないと思ったからです。そうなってしまっては警察にも悪いし、おおごとになってしまいそうだったので」
そしてハミ山さんはやっと念願だった1人暮らしをはじめた。
「家を出てすぐの頃は、母の夢ばかり見ました。とても怖かったです。外を歩いているときに、母と姿形が似た人を見ると、心臓がドドドドって高鳴りました。
そして私もなかなか部屋を片付けられませんでした。すぐに散らかってしまいます。
『私も、片付けができないんだな......』
って気がつきました。
家を出たら、自由に伸び伸びと暮らせると思っていたけど、そんなに簡単なものではないんだなと思いました」
だが普通の家に住むようになって、今まではできなかったこと、やりにくかったこともできるようになった。
「机を手に入れました。『机があるとこんなに楽にお絵かきができるんだ!!』って思って楽しくなって漫画を描き始めました」
そのときに描いた漫画が2015年に単行本化した『心の穴太郎』だった。身体に穴の空いたキャラクターが活躍する、少し寂しさのあるギャグ4コマ漫画だ。
結果的には、1人暮らしの期間はあまり長くは続かなかった。
結婚相手の実家との交流で受けたカルチャーショック
ハミ山さんは数年前に結婚して、現在は2人のお子さんのお母さんになっている。
「結婚後は夫の家族と交流するようになりました。それで、普通の家ではどのように生活が送られているのかをはじめて見ました。カルチャーショックが大きかったです」
例えば、
「トイレでは専用のスリッパを履く」
という行為だけでもハミ山さんには驚きだった。きちんと、不浄の空間と、清浄な空間を分けている。
土足のまま家に上がっていた、ハミ山さんの実家とは、大きく違った。
「よく自分の常識のなさに悩みます。少しずつ覚えていこうと思うのですが、きりがないんですよね。マニュアル本があるわけじゃないですし」
子育てをするうえで、自分にも気をつけている。
「上の子もまだ2歳なので、親子の対立にはなっていません。ただ食べ物を残したりすると
『せっかく作ったのに......』
と言いそうになりますが、母親がチョコレートケーキを捨てた姿を思い出して思いとどまります。