「車椅子じゃスカートは穿けない!」 ユナイテッドアローズ創業者を奮い立たせた女性の悩み
マイノリティとマジョリティの世界に橋が架かった
2018年のリリースから2年が経った2020年の秋、「041」は雑誌「BRUTUS」に掲載されました。
今、ファッションの特集をやるなら、「きれいな服を買いましょう」という話ではなく、そもそも「人と服ってなんだろう?」という話がしたい。そこで栗野さんの元にも声がかかったそうです。「041」というプロジェクトが始動したのは、世の中で「ダイバーシティ」とか「SDGs」といった言葉が、今ほど叫ばれるより前のことでした。
それから数年が経ち、栗野さんの言葉を借りれば、ユナイテッドアローズには「041」というシード(種)が植えられ、ダイバーシティやサステナビリティに関するプロジェクトも徐々に進んでいるそうです。
また、プロジェクトに携わった方の中には、打ち上げの席で、「実は自閉症の家族がいる」ということを初めてカミングアウトしてくれた人もいたそうです。
家族のために「なにかできたらいいな」と思っていたけど、よもや「自分の本業でそんなことができるとは思ってもいなかった」と。今でもスタッフとエレベーターで乗り合わせたときなどに、「障害のある方でも買いやすいウェブサイトもつくりませんか?」といった追加提案をされることもあるそうです。
本当に、福祉業界からするとめちゃくちゃ心強かった。
マイノリティの世界に、ある意味マジョリティな力が掛け合わさることが、こんなにも希望になるなんて。リーディングカンパニーが持つ包容力が、こんなにもカッコよくて大きいものだなんて。ふたつの世界に橋が架かった。ここに橋を架かけられるなんて、思ってもいなかった。
これからもこうやって、あらゆる業界で「マイノリティデザイン」を進めていきたい。そう思わせてくれたプロジェクトでした。
「より良い働き方」のために定めた3つの方向性
「切断ヴィーナス」「NIN_NIN」「041」とプロジェクトを進めるにつれ、そこに関わるクリエイター自身の飢えや、悩みや葛藤とも向き合うことになりました。
僕らは、自分のアイデアで「より良い社会をつくる」以前に、そのアイデアを生むための「より良い働き方」をつくらなければいけない、と。
自分の時間を、人生を、経験を「その才能を費やす使い道はそれでいいんですか?」ともう一度、自分に問いかけ、時間を割いて、僕は自分の働き方を3つの方向性にまで絞りました。
①広告(本業)で得た力を、広告(本業)以外に生かす
②マス(だれか)ではなく、ひとり(あなた)のために
③使い捨てのファストアイデアではなく、持続可能なアイデアへ
今、僕のすべての仕事は、この3つの方向性に沿っています。逆に言うと、それ以外の仕事はお断りしています。20代の頃は、仕事を断るのが怖かった。嫌われるんじゃないか、生意気だと思われるんじゃないか、仕事が減るんじゃないか。
でも、断る。
自分で自分の仕事を編集していかないと、芯を食った働き方はできない。だから、勇気を持ってこの3つのディレクションに絞りました。
澤田 智洋(さわだ・ともひろ)
コピーライター、世界ゆるスポーツ協会代表理事
1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告代理店入社。アミューズメントメディア総合学院、映画「ダークナイト・ライジング」、高知県などのコピーを手掛ける。2015年にだれもが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで80以上の新しいスポーツを開発し、10万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)、『マイノリティデザイン』(ライツ社)がある。