最新記事

ファッション

「車椅子じゃスカートは穿けない!」 ユナイテッドアローズ創業者を奮い立たせた女性の悩み

2021年3月13日(土)18時50分
澤田 智洋(コピーライター、世界ゆるスポーツ協会代表理事)*PRESIDENT Onlineからの転載

マイノリティとマジョリティの世界に橋が架かった

2018年のリリースから2年が経った2020年の秋、「041」は雑誌「BRUTUS」に掲載されました。

今、ファッションの特集をやるなら、「きれいな服を買いましょう」という話ではなく、そもそも「人と服ってなんだろう?」という話がしたい。そこで栗野さんの元にも声がかかったそうです。「041」というプロジェクトが始動したのは、世の中で「ダイバーシティ」とか「SDGs」といった言葉が、今ほど叫ばれるより前のことでした。

それから数年が経ち、栗野さんの言葉を借りれば、ユナイテッドアローズには「041」というシード(種)が植えられ、ダイバーシティやサステナビリティに関するプロジェクトも徐々に進んでいるそうです。

また、プロジェクトに携わった方の中には、打ち上げの席で、「実は自閉症の家族がいる」ということを初めてカミングアウトしてくれた人もいたそうです。

家族のために「なにかできたらいいな」と思っていたけど、よもや「自分の本業でそんなことができるとは思ってもいなかった」と。今でもスタッフとエレベーターで乗り合わせたときなどに、「障害のある方でも買いやすいウェブサイトもつくりませんか?」といった追加提案をされることもあるそうです。

本当に、福祉業界からするとめちゃくちゃ心強かった。

マイノリティの世界に、ある意味マジョリティな力が掛け合わさることが、こんなにも希望になるなんて。リーディングカンパニーが持つ包容力が、こんなにもカッコよくて大きいものだなんて。ふたつの世界に橋が架かった。ここに橋を架かけられるなんて、思ってもいなかった。

これからもこうやって、あらゆる業界で「マイノリティデザイン」を進めていきたい。そう思わせてくれたプロジェクトでした。

「より良い働き方」のために定めた3つの方向性

「切断ヴィーナス」「NIN_NIN」「041」とプロジェクトを進めるにつれ、そこに関わるクリエイター自身の飢えや、悩みや葛藤とも向き合うことになりました。

books20210313.pngそして、こう思ったんです。

僕らは、自分のアイデアで「より良い社会をつくる」以前に、そのアイデアを生むための「より良い働き方」をつくらなければいけない、と。

自分の時間を、人生を、経験を「その才能を費やす使い道はそれでいいんですか?」ともう一度、自分に問いかけ、時間を割いて、僕は自分の働き方を3つの方向性にまで絞りました。

①広告(本業)で得た力を、広告(本業)以外に生かす
②マス(だれか)ではなく、ひとり(あなた)のために
③使い捨てのファストアイデアではなく、持続可能なアイデアへ

今、僕のすべての仕事は、この3つの方向性に沿っています。逆に言うと、それ以外の仕事はお断りしています。20代の頃は、仕事を断るのが怖かった。嫌われるんじゃないか、生意気だと思われるんじゃないか、仕事が減るんじゃないか。

でも、断る。

自分で自分の仕事を編集していかないと、芯を食った働き方はできない。だから、勇気を持ってこの3つのディレクションに絞りました。

澤田 智洋(さわだ・ともひろ)

コピーライター、世界ゆるスポーツ協会代表理事
1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告代理店入社。アミューズメントメディア総合学院、映画「ダークナイト・ライジング」、高知県などのコピーを手掛ける。2015年にだれもが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで80以上の新しいスポーツを開発し、10万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)、『マイノリティデザイン』(ライツ社)がある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

レバノン南部で医療従事者5人死亡、国連基地への攻撃

ビジネス

物価安定が最重要、必要ならマイナス金利復活も=スイ

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中