母となったTBS久保田智子の葛藤の訳と「養子」の真実
ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION
当時の久保田は、そんな呪縛を克服しようと「私がハナコのママである必然性」を探していた。なぜハナちゃんにとって、自分にとって、お互いがお互いじゃないと駄目なのか。その理由を、きっとハナちゃんは知りたがるだろう、と。おなかの中から生まれていなくてもつながりがあるのだと、「運命」以上の論理的な説明を求めていた。
「私はママになった、というよりは、日々ママになりつつある、という状況です」と、未公開に終わった原稿は結ばれる。
しかしその後、1日8回のミルクから手作りの離乳食へ、抱っこひもから電動自転車のチャイルドシートへと2人で積み重ねてきた時間が、久保田に予想もしていなかったロジックを生み出していくことになる。
「ずっと一緒にいて生活していくと、そこで得られるものは自分の想像をはるかに超えていた」と、今の久保田はどこか解放されたかのように語る。「その関係性を言葉にすることは今も難しいのだけれど、とにかく、すごくいい」
19年11月、平本夫妻とハナちゃんは、戸籍上も「実の親子」となった。特別養子縁組が成立するには育ての親が家庭裁判所に縁組の申し立てをし、6カ月以上の試験養育期間を経て家庭裁判所が審判を下す。本日をもって、あなたたちは正式に親子です、と。
だが、親子をつくるのは紙ではない。今年4月には、ハナちゃんが自分のほうから「ママ」と呼んでくれた。代替可能な誰かではなく「私」を求めているのだと分かって、久保田も「ママだよ~!」と言えるようになった。今では、既成概念の「母と子」ではなく、「私とハナちゃん」という言い方がしっくりくる。たった1つの、新しい関係性を2人で一緒につくっていると感じている。
真実告知と生みの親の事情
特別養子縁組家庭に他の多くの家族との違いがあるとすれば、それは子育てをするなかで親が子供に、血縁関係がないと知らせるプロセスを踏むことだ。特別養子縁組は戸籍上も実の親子になる制度だが、子供には自分の出自を知る権利がある。戸籍に「【民法817条の2による裁判確定日】令和〇年〇月〇日」と記載されるのは、その権利を保障するためだ。
育ての親が子供に出自を告げるプロセスは「真実告知」と呼ばれ、いつ、どういう言い方でどこまで伝えるのかについての決まりはない。それぞれの親子関係の中で模索されることになるが、新生児から育てている場合は物心がつく前から、お母さんのおなかからは生まれていないけれどこんなに大切に思っている、などと伝えることが推奨されている。
他方で、生みの親の事情をありのままに伝えるべきかどうかは難しい。鈴木によれば、女性たちから相談の連絡が入るのは、中期中絶(妊娠12~22週未満)ができなくなった妊娠22週以降が多い。もともと生理不順で生理が止まっても気にしていなかった、便秘気味で初期の胎動を排泄の動きと勘違いしていたという声をたびたび聞くほか、妊娠に気付けないような生活をしている、社会的に弱い立場の女性も少なくない。
ようやく病院に行くと中期中絶は費用も高額で危険が伴うと告げられ、怖くなってそれ以降は病院に行かず、妊婦健診も受けないまま時間が過ぎる。民間団体に委託する場合は生みの親の側に出産に関わる費用は発生しないという情報を得て連絡してくる人の中には、15歳以下を含む未成年者もいれば、婚外子を妊娠した既婚者や独身者もいる。