Apple Watchは「築くべくして築かれた」ブランド(ITジャーナリスト林信行と振り返る:前編)
スマートウォッチを、ファッションアイコンに押し上げた戦略。
発表会に招かれた、ファッション界の重鎮たち。
これまでテクノロジー、IT系企業の新製品発表会に招待されるメディアといえば、デジタル系メディアや経済系のメディアが大半だった。しかし、その会場には一般誌やカルチャー誌、そしてファッション系メディアが多く招待され、なかにはファッションモデルの姿もちらほら。日本からも藤原ヒロシさんが招待されるなど、そのメンバーと華やかな雰囲気は、大規模なファッションイベントのようであった。
さらに、続く10月にはパリにあった高級セレクトショップ「コレット」で1日限りの展示会を開催。なんとそこには、ファッションデザイナーの故カール・ラガーフェルドやUS版VOGUEの名物編集長、アナ・ウィンターも出席と、ファッション界を代表する大御所ふたりが来場し大きな話題となった。
<参考記事>ITジャーナリスト・林信行とAppleのノートパソコン史を振り返る。
テクノロジーの枠組みを飛び出した、広告戦略。
三者の蜜月関係はそれだけに留まらない。Appleは、ウィンターの主催により毎年ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催される「MET GALA(メットガラ)2016」のスポンサーに就任。名誉会長を努めたカール・ラガーフェルドの腕には、ゴールドリングブレスレットのApple Watchが光り輝いていた。なお、このイベントの司会を"歌姫"テイラー・スウィフトらとともに務めていたのが、当時のAppleのCDO(最高デザイン責任者)であり、Apple Watchのデザイン、そしてファッション界への進出を牽引したジョナサン・アイブであった。
Apple Watchのリリース時には、もうひとつの噂があった。Apple Watchをデザインした世界的プロダクトデザイナー、マーク・ニューソンが、そのためにAppleへ入社したというニュースが世界を駆け巡ったのだ。
しかし、それはまったくの誤報であり、単にジョナサン・アイブとの強いパートナーシップが、そうした誤解を生んだのではないかとみられている。
名だたるブランドとのコラボレーションが話題に。
さて、そうしたファッション業界へのアプローチに加え、Apple Watchが単なるガジェットではなく、ファッションアイテムでもあることを広く印象づけたのは、ファッションブランド同様に春夏と秋冬のシーズンごとにリリースされる付け替え可能なストラップの存在だ。そしてなにより、名だたるファッションブランドとのコラボレーションを行ったことこそ、最大の要因だろう。
初代モデル発売から半年後の15年秋には、世界を代表するハイブランド、エルメスとのコラボモデルを発表。エルメスのアイコンである二重巻きのレザーストラップ「ドゥブルトゥール」が採用されたエレガントなモデルは大きな話題となり、日本でも大ヒットとなったことは記憶に新しい。