小池都知事は「震災時の朝鮮人虐殺」を認める「メッセージを出してくれると思う」東大・外村教授
――提出した要請文について都はどんな反応を?
都の秘書課長からは、「関係部署と共有します」と言われた。
今回の要請は「追悼メッセージを出してほしい」というものであり、(横網町公園での)追悼式典に追悼文を送れと言っているわけではない。だから私はまだ、小池さんが英断してくれると思っています。9月1日に何かメッセージを出してくれるだろう、と。
史実やその解釈についての議論は市民社会で自由に行われるべきで、行政があれこれ声明を出すものではないと個人的には思っている。行政が歴史解釈の権威や最終判断の権利を持っていると思われても困る。
ただ、重大な人権侵害につながるような虚説が流布しているなかでは、分かっていることについては「こうである」と示したほうがいい。特に、行政に関わる重要な事実については姿勢を明らかにする必要がある。
震災時の虐殺は行政の過失、国の過失によって起こった。そのことを国や都がちゃんと認めることが必要だ。
――「虐殺はなかった」という言説がたびたび出てくるのはなぜか。
「たびたび出てくる」というより、2009年まではなかったことです。虐殺はなかったと言い出したのは、09年に出た工藤美代子さんの『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』(産経新聞出版)という本です。
ただしこの本は、殺された朝鮮人がゼロだとは言っていない。以前から朝鮮人のテロ組織があり、関東大震災を機に蜂起する計画があったので治安を守るためにやった、暴動があったから正当防衛だ、という話をいろいろな資料をつなぎ合わせて書いている。
しかもその頃には、インターネットに上がったさまざまな資料にアクセスすることが容易になっていた。「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸水に毒を投げている」などと報じた震災直後の新聞記事をネットで見て、「やっぱり朝鮮人は暴動を起こしていた。正当防衛で殺したんだ」と、自分が信じたい史実を組み立てる人が出てきた。
虐殺を否定するような言説が出てくるのは、そもそも1923年当時に、なぜこんなことが起きたのか、どれだけの朝鮮人が殺されたかを調べて原因や責任の所在を公表することをしていないから。それを行政がやるべきだったのに、自らのミスを隠蔽したわけです。
1923年の帝国議会で、なぜ虐殺が起きたのかを明らかにするよう追及した議員がいた。しかし首相が「取り調べ中」と答え、それがそのまま100年放置されている。
当時の政府がやったことといえば、デマに踊らされて殺された人がいることは認めつつ、「少数だが、実は悪い朝鮮人がいた」という事実を見つけ出して宣伝すること。それで乗り切った。それが100年たっても「実は悪い朝鮮人がいて......」という話の根拠になっている。