最新記事
日本社会

小池都知事は「震災時の朝鮮人虐殺」を認める「メッセージを出してくれると思う」東大・外村教授

2024年8月29日(木)15時53分
大橋 希(本誌記者)

朝鮮人虐殺について要請文を出した東大の外村教授

「行政に関わる重要な事実については姿勢を明らかにする必要がある」と話す東大の外村教授

――提出した要請文について都はどんな反応を?

都の秘書課長からは、「関係部署と共有します」と言われた。

今回の要請は「追悼メッセージを出してほしい」というものであり、(横網町公園での)追悼式典に追悼文を送れと言っているわけではない。だから私はまだ、小池さんが英断してくれると思っています。9月1日に何かメッセージを出してくれるだろう、と。


史実やその解釈についての議論は市民社会で自由に行われるべきで、行政があれこれ声明を出すものではないと個人的には思っている。行政が歴史解釈の権威や最終判断の権利を持っていると思われても困る。

ただ、重大な人権侵害につながるような虚説が流布しているなかでは、分かっていることについては「こうである」と示したほうがいい。特に、行政に関わる重要な事実については姿勢を明らかにする必要がある。

震災時の虐殺は行政の過失、国の過失によって起こった。そのことを国や都がちゃんと認めることが必要だ。

――「虐殺はなかった」という言説がたびたび出てくるのはなぜか。

「たびたび出てくる」というより、2009年まではなかったことです。虐殺はなかったと言い出したのは、09年に出た工藤美代子さんの『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』(産経新聞出版)という本です。

ただしこの本は、殺された朝鮮人がゼロだとは言っていない。以前から朝鮮人のテロ組織があり、関東大震災を機に蜂起する計画があったので治安を守るためにやった、暴動があったから正当防衛だ、という話をいろいろな資料をつなぎ合わせて書いている。

しかもその頃には、インターネットに上がったさまざまな資料にアクセスすることが容易になっていた。「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸水に毒を投げている」などと報じた震災直後の新聞記事をネットで見て、「やっぱり朝鮮人は暴動を起こしていた。正当防衛で殺したんだ」と、自分が信じたい史実を組み立てる人が出てきた。

虐殺を否定するような言説が出てくるのは、そもそも1923年当時に、なぜこんなことが起きたのか、どれだけの朝鮮人が殺されたかを調べて原因や責任の所在を公表することをしていないから。それを行政がやるべきだったのに、自らのミスを隠蔽したわけです。

1923年の帝国議会で、なぜ虐殺が起きたのかを明らかにするよう追及した議員がいた。しかし首相が「取り調べ中」と答え、それがそのまま100年放置されている。

当時の政府がやったことといえば、デマに踊らされて殺された人がいることは認めつつ、「少数だが、実は悪い朝鮮人がいた」という事実を見つけ出して宣伝すること。それで乗り切った。それが100年たっても「実は悪い朝鮮人がいて......」という話の根拠になっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中