自社株買いでストップ高!「日本株」の評価が変わり始めた理由とは?
【3】TOB(株式公開買い付け)
株式公開買い付け(TOB)で自社株買いを買い付ける場合もあります。
通常のTOBは市場価格に対してプレミアムを付けた価格で実施されますが、自社株買いのTOBでは市場価格より低い価格で実施される場合があります。これはディスカウントTOBと呼ばれ、大株主からの所有権移転を目的として、あらかじめ価格や株数を協議した上で行われるものです。
大株主による売却を前提とする点では立会外取引による方法と似ていますが、ディスカウントTOBによる方法では、価格を市場よりも低く設定できるメリットがあります。その一方で、準備や実施に時間がかかる点がデメリットです。
東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランド<4661>が2020年に、スポンサーである三井不動産<8801>からTOBで自社株を買い付けたケースでは、決議前の1か月間の平均株価から10%ディスカウントした価格が採用されました。
自社株買いを後押しする市場改革
東京証券取引所は、1月30日の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理」と題した資料で、「我が国においては、経営者が資本コストや株価を意識していないケースが多く、経営者の意識改革やリテラシー向上、企業経営における自律性の向上が必要」であるとしました。
そのために、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れている企業に対しては、改善に向けた方針や具体的な取り組みなどの開示を継続的に求めていくべきである、という方針を表明しました。これが海外投資家などに高く評価されて、PBR1倍割れの割安株を買う動きにつながりました。
PBRは、純資産が多いほど低下します。言い換えれば、PBR1倍割れの企業の中には、純資産を配当や投資や自社株買いに回さずに寝かせたままにしているケースも多くありました。
こうした企業にとっては、是正に向けた圧力が一層強まったといえます。これまでも、株式持ち合いの解消の動きや「物言う言う株主」の台頭といった圧力はあったのですが、今回は「PBR1倍割れ」という明確なラインを東証が示すことで是正を強く促す動きが評価されています。
3月31日には、東証は、資本コストや株価を意識した経営を実現するための施策を求めるよう、上場企業に通知しました。こうした状況の改善が必要な場合は、具体的な取り組みを策定して株主に通知するよう求めています。
自社株買いと総還元性向
最近では「総還元性向」を引き上げると宣言する企業も増えています。総還元性向とは、企業が利益のうちどのくらいの割合を自社株買いと配当に当てているかを示す指標で、配当の支払い総額と自社株買いの総額を当期の純利益で割り算して求められます。
●総還元性向(%)=(配当支払い総額+自社株買い総額)÷当期純利益×100
配当と自社株買いをあわせた、企業の株主還元策全体の姿勢を示す指標といえるでしょう。当然、総還元性向を引き上げるという宣言は、株主にとってプラスの材料です。
また、配当は一度引き上げても、利益が落ちたときに減配すると市場からの印象が悪くなりますが、総還元性向を目標としておけば配当と自社株買いの割合を柔軟に設定できるので、経営陣としても目標としやすい側面があるのです。