麻薬カルテルのボスが性転換で「アンチヒロイン」に...映画『エミリア・ペレス』は犯罪サスペンスで異色のオペラ
A Wild Ride of a Movie
エミリア役のガスコンの強烈な存在感は、脇を固める俳優陣の好演をかすませるどころか逆に光らせる。
リタ役のゾーイ・サルダナ(Zoe Saldaña)は歌手・ダンサーとしての新たな一面を見せ、エミリアの元妻ジェシーを演じるセレーナ・ゴメス(Selena Gomez)は役に際どいユーモアと自滅的な残酷さを与えている。
第1幕は全てエミリアではなく、メキシコシティの有名弁護士事務所で刑事事件を担当する弁護士リタを軸に展開する。上司は性差別主義者で、妻を殺した金持ちの暴力夫を弁護。優秀なリタのサポートのおかげで勝訴続きだ。
裁判所から出てきたリタは悪党上司の下で働くことへの怒りを込めて、通りがかった女性清掃作業員たちのコーラスをバックに歌で不満を爆発させる。
だが上には上がいる。リタは麻薬カルテルのボス、マニタス(ガスコン)から、極秘計画の実行に手を貸せば彼女が考えたこともないような高額の報酬を払う、と持ちかけられる。自分が死んだと見せかけ、念願の性別適合手術を受けて身も心も女になりたいというのだ。
第1幕のラストでマニタスは手術を受け、エミリアとなって登場する。
予測不能の展開が本作の最大の売りだからネタバレは控えるが、エミリアはかつてのマッチョな悪党とは一変。フェム(レズビアンの女役)のようにエレガントで女らしく、死んだマニタスの裕福ないとこだと偽って、元妻のジェシーと子供たちをメキシコに呼び戻す。