最新記事
吉原

吉原は11年に1度、全焼していた...放火した遊女に科された「定番の刑罰」とは?

2025年2月13日(木)12時25分
永井 義男 (小説家)*PRESIDENT Onlineからの転載

臨時営業だからこそのお客であふれた

仮宅になると妓楼が先を争ってよい物件を求めるため、いきおい借家の家賃も高騰した。

弘化2年(1845)12月5日、吉原は全焼して、浅草、本所、深川に250日間の仮宅が許された。


『藤岡屋日記』によると、このとき間口三間(約5.5メートル)、奥行七間(約13メートル)の店舗を角町の大黒屋が30日、四十三両の契約で借りた。

また、間口三間半(約6.4メートル)、奥行十一間(約20メートル)の店舗を、角町の二葉屋が30日、四十五両の契約で借りたという。ともに法外な家賃である。

店舗を明け渡した商家の業種はわからないが、主人以下引越しを余儀なくされるとはいえ、仮宅の期間は左団扇で暮らせたであろう。

仮宅は江戸の市中で営業するため、辺鄙(へんぴ)な地にある吉原にくらべて格段に便利である。臨時営業のため格式や伝統にもとらわれず、遊女の揚代(あげだい)も安かった。趣向が変わっていて、おもしろいという客もいた。

こうして仮宅には、それまで吉原や花魁とは縁がなかった男たちまでもがどっと押し寄せてきた。

「仮宅バブル」で生き延びた妓楼も

仮宅になると、妓楼は借家で臨時営業するため、改装にある程度の金はかけたが、吉原の広壮さにくらべると急場しのぎの粗末なものだった。

調度品も間に合わせの品である。家賃が高いとはいえ、壮麗な妓楼の建物の建設費や維持費にくらべるとたいしたことはなかった。

このため、経費はあまりかけずに客は大幅にふえた。値段をさげても、妓楼の利益は大きかった。

それまで経営難におちいっていた妓楼も、仮宅になって持ち直した例が少なくなかったほどである。

幕府は『新吉原町定書』で、経営不振の楼主(ろうしゅ)のなかには火事が発生すると内心で喜び、全焼をひそかに願い、消火に努めるどころか、すぐに仮宅の借り受けに走りまわっている者がいることを指摘し、一部の楼主の不心得をきびしく譴責(けんせき)している。

仮宅になって有卦(うけ)に入った楼主の喜びようは、よほど目に余るものがあったのであろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

潜在的リスク巡る「情報不足」の議論が不透明感助長、

ビジネス

米欧の関税巡る対立、企業活動脅かす 在欧米商工会議

ビジネス

ヘッジファンド、米株ポジション再び積み上げ 世界的

ビジネス

アングル:今週のFOMC、トランプ氏政策で一変した
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自然の中を90分歩くだけで「うつ」が減少...おススメは朝、五感を刺激する「ウォーキング・セラピー」とは?
  • 2
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 5
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    エジプト最古のピラミッド建設に「エレベーター」が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 9
    『シンシン/SING SING』ニューズウィーク日本版独占…
  • 10
    奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 8
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 9
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 10
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中