大河ドラマ『べらぼう』が10倍面白くなる基礎知識! 江戸の出版の仕組みと書物の人気ジャンル
「今様見立士農工商 商人」歌川豊国画、1857(安政4)年、国立国会図書館蔵。江戸の絵草紙問屋の様子を美女に見立てて描いたもの。
<江戸の人々を熱狂させた出版メディア。蔦屋重三郎が活躍した時代の出版の仕組み、本の作り方、当時の本のジャンルなど、押さえておきたい基礎知識>
ついに放送が始まった今年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。書物と浮世絵を通して江戸にエンターテインメントを開花させ、時代の空気を作ったメディア王・蔦屋重三郎の活躍をどのように描くのか期待が膨らむ作品だ。
今回はドラマを楽しむにあたり、知っておくと細かな描写がより味わい深くなる、江戸の出版文化についての基礎知識をお届けする。
本記事は書籍『PenBOOKS 蔦屋重三郎とその時代。』(CCCメディアハウス)から抜粋したものです。
書物問屋と地本問屋
元禄期(1688〜1704)以降、政治・経済の中心は上方から江戸へと次第に移っていきつつあった。文化の面においても、江戸では多色摺りの錦絵や江戸歌舞伎、洒落本や黄表紙などが生まれ、やがて独自の庶民文化を形成していくこととなる。
とりわけ出版に限って言えば、宝暦年間(1751〜64)には、江戸での出版数が上方を上回るほどに需要が増加していたのである。そんな江戸の出版物を世に送り出したのが、蔦屋重三郎のような版元であったが、取り扱う本の種類に応じて、書物問屋(どいや)と地本問屋の違いがあった。
前者はいわゆる「物之本」と称される医学書や儒学書、唐書(中国の書物の訳書)、仏教書、図鑑類などの専門書・学術書を主に扱う。江戸の書物問屋は上方で作られた本を江戸で流通させるための小売問屋として主にスタートしている。
これに対して、後者の地本問屋では、草双紙や絵本、浄瑠璃本や芝居絵、浮世絵の一枚絵などを扱った。上方で作られ江戸で売られた絵本類が「下り絵本」と呼ばれたのに対し、地元で収穫された物である「地物」の意味から、江戸で作られた出版物は「地本」と呼ばれたのである。江戸の書物問屋の多くは、上方からの「下り本」を売り捌くことがメインの事業で、洒落本や黄表紙などをはじめとする江戸の庶民文化色の濃い出版物は、江戸で独自の発展を遂げた地本問屋がリードしていくこととなった。
江戸の本屋・蔦重の先駆者たち
江戸の書物問屋としては、幕府の御用書肆(しょし)となった須原屋茂兵衛(すはらやもへえ)が有名である。宝暦年間(1751〜64)に同店から独立した須原屋市兵衛は、その後、平賀源内や大田南畝らの作品を出版するなど独自の展開を見せた。
人口も増大し、一大経済都市として発展した江戸では、やがて庶民たちの欲望を満たすために多種多様な出版物が、地本問屋を中心に作られることとなった。早くも延宝(えんぽう)年間(1673〜81)には、松会三四郎(まつえさんしろう)が出版業に着手。幕府の御用書肆ながら、浮世絵の祖である菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の絵本類などを刊行し、独自の出版活動を行った江戸の地本問屋の先駆けであった。
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