【ポール・ウェラー出演】ロンドン大空襲映画『ブリッツ』が「不発」だった理由、冬休みにはぴったりだが...
Steve McQueen Drops a Dud
勤務先の軍需工場でBBCの生放送に出ることになり、イギリス軍のために歌うシーンはいい。緊張していたリタがやがて熱い思いに動かされ、堂々と歌声を披露する過程をローナンは見事に演じた。
だが半狂乱で息子を捜し始めるまで、彼女の世界は動きに欠ける。その頃には映画は後半に差しかかっており、2つのストーリーが並行してスリリングに繰り広げられる時間はあまり残されていない。
イギリス国民が「平静を保ち、普段の生活を続けよ」の標語の下に一丸となって空襲に耐えたという神話に反論したかったと、マックイーンは述べた。『ブリッツ』を通して彼は、当時のイギリスが対立の絶えない多民族国家であったこと、非白人の体験が往々にして語られずにきたことをあらためて強調する。
ジョージの父親は黒人で、その事実が生活のあらゆる側面に影響を及ぼす。ジョージが汽車から飛び降りるのは白人の少年にいじめられたのがきっかけだし、のちには有色人種ならではの体験を通してナイジェリア出身の兵士イフェ(ベンジャミン・クレメンタイン)と親交を結ぶ。白人家庭で育ったジョージには、非白人と心を通わせた経験がほとんどない。
ストイックな白人の国というイメージが強い当時のイギリスを、マックイーンがより多様な社会として描きたいのは明らかだ。それは伝える価値のあるメッセージだが、メッセージ性が先に立ってしまい、登場人物と物語から自然ににじみ出ないのが惜しい。