【ポール・ウェラー出演】ロンドン大空襲映画『ブリッツ』が「不発」だった理由、冬休みにはぴったりだが...
Steve McQueen Drops a Dud
シングルマザーのリタ(シアーシャ・ローナン)は、9歳の息子ジョージ(エリオット・へファーナン)を泣く泣く地方に疎開させることにする。だがジョージは母と祖父(ミュージシャンのポール・ウェラーが演じている)と3人で暮らすわが家に戻りたい一心で、汽車から飛び降りる。
長く危険な旅の途中で、少年はさまざまな人と巡り合う。出会いの一部は示唆に富み感動を呼ぶが、単に歴史と社会に物申す目的で挿入したかに思えるエピソードもある。
例えば防空壕で白人男女が移民の一家を追い出そうとする場面。彼らがイデオロギーを打ち出すためにつくられたようなキャラクターでなければ、もっと心に響いただろう。
多民族のイギリス描く
ジョージが凶悪な犯罪集団に利用されるくだりもいただけない。マックイーンの映画には観客の顔に痛みや苦しみをこすり付けるかのように、悲惨な状況を過剰に演出するきらいがある。
爆撃されたナイトクラブでジョージが死体から宝石類を盗むことを強要される場面は猟奇ホラーめいていて、映画全体の社会派リアリズムから浮いている。
だがより大きな問題は構造にある。ジョージの旅路とリタの日常という2つのストーリーが展開するのだが、そのバランスが悪いのだ。
息子が失踪したことを、リタは映画の中盤まで知らずにいる。つまりジョージが瓦礫の町で生きるか死ぬかの危機にさらされているときもリタはわりとのんきに暮らしており、見せ場もほとんどない。