最新記事
ドラマ

斬首された女王が死なない?...歴史を大改変も「下品な豆知識」で『ゲースロ』を超える『マイ・レディ・ジェーン』

A Quirky Historical Riff

2024年8月9日(金)15時16分
レベッカ・オニオン

『マイ・レディ・ジェーン』場面写真(ケイト・オフリン演じる王女メアリー)

ジェーンを追い落とそうと、残忍な王女メアリー(中央)は策略を巡らす ©AMAZON CONTENT SERVICES LLC

鑑賞していると、私は歴史を専攻し17世紀の銃や忘れられた蒸気船事故について仲間と夢中で語り合った大学院時代に引き戻された(同好の士に出会えるのも、大学院で学ぶ醍醐味だ)。

このドラマが好評を博し人気ランキングで健闘しているのは、そんな歴史へのマニアックな情熱がうかがえるせいかもしれない。


登場人物の行動は、博識なナレーター(オリバー・クリス)が解説してくれる。テューダー朝のおかしな習俗が、全編を通して笑いを誘う。

ジェーンがボウリングのようなゲームに興じ「スナッフルを取った!」と歓声を上げれば、「『スナッフルって何?』とお思いでしょう」と、ナレーションが入る。「テューダー朝のスポーツについてはあまり深く考えないことです。何しろ朝ご飯にワインを飲んだ時代なのですから」

宮廷医は打撲傷に動物のふんを塗り、食卓にはゆでたダチョウやイルカのローストや、「スポッテッド・ディック(まだら模様のペニス)」なるデザートが並ぶ。ある不幸な王族についてナレーターは、「近親婚の成れの果て」だと皮肉を言う。

「ファンタジー」の魅力

ジェーンと王冠を争う王女メアリー(ケイト・オフリン)は、政敵を「お便器番」に任じる。これは実際にあった職業で、主君のお通じを確認し、尻を拭くのが仕事だ。

メアリーは血に飢えたサディスト。ジェーンをついに投獄すると、自分で決めた処罰をうれしそうに顧問官に発表させる。その内容とは「ジェーンのはらわたを引きずり出して首をはね、体を四つ裂きにして地べたに放置せよ」。

ジェーンの親戚に当たるエドワード6世(ジョーダン・ピーターズ)も、面白いキャラクターだ。ジェーンと同じく史実に反して生き残るが、女性蔑視がひどい。聡明なジェーンを普段は愛し敬うが、親が決めた結婚を止めてくれと彼女に懇願されると、「貴婦人は結婚するものだ」と上から目線で諭す。

親切な好青年なのに、社会通念は鉄の意志で死守しようとする。そんなエドワードの矛盾が物語を盛り上げる。視聴者はヒロインが世界を変えることを期待するが、簡単にはいきそうにない。

一般的な歴史劇だと思って『マイ・レディ・ジェーン』を見れば、戸惑うだろう。SNSでは、ばら戦争を下敷きにした『ゲーム・オブ・スローンズ』のような「歴史ファンタジー」として見るように勧める声もある。

史実を度外視したのはどちらも同じ。だが愛とユーモアをたっぷり交えて歴史を改変した点で、『マイ・レディ・ジェーン』は『ゲーム・オブ・スローンズ』の先を行く。

愛を込めて歴史を笑うコメディーとして楽しみたい。

©2024 The Slate Group

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

不確実性の「劇的な高まり」悪化も=シュナーベルEC

ワールド

マスク氏、米欧関税「ゼロ望む」 移動の自由拡大も助

ワールド

米上院、トランプ減税実現へ前進 予算概要可決

ビジネス

英ジャガー、米国輸出を一時停止 関税対応検討
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 10
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中