斬首された女王が死なない?...歴史を大改変も「下品な豆知識」で『ゲースロ』を超える『マイ・レディ・ジェーン』
A Quirky Historical Riff
鑑賞していると、私は歴史を専攻し17世紀の銃や忘れられた蒸気船事故について仲間と夢中で語り合った大学院時代に引き戻された(同好の士に出会えるのも、大学院で学ぶ醍醐味だ)。
このドラマが好評を博し人気ランキングで健闘しているのは、そんな歴史へのマニアックな情熱がうかがえるせいかもしれない。
登場人物の行動は、博識なナレーター(オリバー・クリス)が解説してくれる。テューダー朝のおかしな習俗が、全編を通して笑いを誘う。
ジェーンがボウリングのようなゲームに興じ「スナッフルを取った!」と歓声を上げれば、「『スナッフルって何?』とお思いでしょう」と、ナレーションが入る。「テューダー朝のスポーツについてはあまり深く考えないことです。何しろ朝ご飯にワインを飲んだ時代なのですから」
宮廷医は打撲傷に動物のふんを塗り、食卓にはゆでたダチョウやイルカのローストや、「スポッテッド・ディック(まだら模様のペニス)」なるデザートが並ぶ。ある不幸な王族についてナレーターは、「近親婚の成れの果て」だと皮肉を言う。
「ファンタジー」の魅力
ジェーンと王冠を争う王女メアリー(ケイト・オフリン)は、政敵を「お便器番」に任じる。これは実際にあった職業で、主君のお通じを確認し、尻を拭くのが仕事だ。
メアリーは血に飢えたサディスト。ジェーンをついに投獄すると、自分で決めた処罰をうれしそうに顧問官に発表させる。その内容とは「ジェーンのはらわたを引きずり出して首をはね、体を四つ裂きにして地べたに放置せよ」。
ジェーンの親戚に当たるエドワード6世(ジョーダン・ピーターズ)も、面白いキャラクターだ。ジェーンと同じく史実に反して生き残るが、女性蔑視がひどい。聡明なジェーンを普段は愛し敬うが、親が決めた結婚を止めてくれと彼女に懇願されると、「貴婦人は結婚するものだ」と上から目線で諭す。
親切な好青年なのに、社会通念は鉄の意志で死守しようとする。そんなエドワードの矛盾が物語を盛り上げる。視聴者はヒロインが世界を変えることを期待するが、簡単にはいきそうにない。
一般的な歴史劇だと思って『マイ・レディ・ジェーン』を見れば、戸惑うだろう。SNSでは、ばら戦争を下敷きにした『ゲーム・オブ・スローンズ』のような「歴史ファンタジー」として見るように勧める声もある。
史実を度外視したのはどちらも同じ。だが愛とユーモアをたっぷり交えて歴史を改変した点で、『マイ・レディ・ジェーン』は『ゲーム・オブ・スローンズ』の先を行く。
愛を込めて歴史を笑うコメディーとして楽しみたい。