最新記事
映画

ガスマスクを股間にくくり付けた悪役...常軌を逸した『マッドマックス』最新作の正しい楽しみ方

More Madness

2024年6月7日(金)14時30分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
アニャ・テイラー=ジョイ演じるフュリオサ

全てを奪われたフュリオサは怒りを燃やして最強の戦士に成長する ©2024 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

<「ウジ虫のマッシュとゴキブリの配給を2倍にしてくれ」陽気なグロテスクさに満ちた荒野で生きるフュリオサを応援せずにはいられない>

ジョージ・ミラー監督が1979~85年に送り出した「マッドマックス」3部作と、30年後の2015年に公開された第4作『マッドマックス怒りのデス・ロード』は、批評家からも観客からも大喝采で迎えられた。

そのミラーが、猛スピードでカーチェイスを繰り広げるアクション映画に戻ってきた(90~00年代は『ベイブ/都会へ行く』『ハッピーフィート』など家族向け作品が中心だった)。

この数十年、大量生産される娯楽映画にはディストピアがあふれ、「悪い未来」の概念から想像力が失われた。視界不良な地下壕。ボロボロの服を着た主人公が、爆撃で焼け野原になった街や、乗り捨てられた車で埋まった高速道路を歩き回る。「悪い未来」はどれも同じように見えた。

ミラーの描く「ウェイストランド(荒野)」は全く異なる。この世のものとは思えない非現実さとウイットにあふれた色鮮やかなディストピアだ。『怒りのデス・ロード』はナミビアの砂漠で、最新作の『マッドマックス:フュリオサ』はオーストラリアの深紅の砂漠で撮影された。

人間の大腿骨に叫ぶ顔を彫刻したスティックシフト。第1次大戦で使われたガスマスクを股間にイチジクの葉のようにくくり付けた悪役。

人間の頭蓋骨で作ったヘルメット。ミラーが描くスチームパンク(英ビクトリア朝と近未来のテクノロジーを融合させたスタイル)の未来は、無法な残酷さと底知れぬ人間の苦悩の場所かもしれないが、見た目はとにかくカッコいい。

シリーズ5作目となる『フュリオサ』は、前作から時をさかのぼる。『怒りのデス・ロード』の最強の戦士フュリオサが、トラウマを抱えたプレティーンの少女(アリラ・ブラウン)から、復讐に燃える20代半ばの女性(アニャ・テイラー=ジョイ)に成長するまでの約15年を描く2時間半の大作だ。

『怒りのデス・ロード』でシャーリーズ・セロンが演じたフュリオサは丸刈りで、顔の上半分に塗った黒いグリースの下で復讐に燃える険しい表情を見せ、失った左腕に機械のアームを装着している。

『フュリオサ』はヒロイン誕生の物語だ。当のヒロインには、そんな物語は必要なかったのだろうが。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中