最新記事
演劇

「1億円の借金を引き継いだ20代だった」 平田オリザ、こまばアゴラ劇場の40年をすべて語る

2024年6月26日(水)18時00分
柾木博行(本誌記者)

日本の現代演劇の潮流を生んだ劇場

平田オリザ

HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

──アゴラが青年団のホームとして果たした役割、特に現代口語演劇を生み出したという点はどう考えていますか。

そうですね、空間自体がものすごい小っちゃいっていうことがまずありますよね。それと僕の作品は人物同士の距離感とかが大事なお芝居なので、小さいなりに稽古場が舞台と同じ大きさで、ある程度セットも組めて稽古できることのメリットは結構大きくて。

みんな仕事やバイトとかしていましたけど、好きなだけ稽古を集中してできて、それが今も国内外で上演されている青年団の一連の名作を生むことになったことはもう間違いないですね。

──役者たちの部分で言うと、亡くなられた志賀廣太郎さんはじめ、古館寛治さんとか、テレビや映画でも活躍するような役者を輩出した点でも果たした役割があると思います。

そうですね、それはたまたまというか。ただ、劇作家、演出家も含めて、こういう場を作れば、才能は集まってくるってことだと思いますけどね。

──ある種、競争の原理がうまく働いた?

そういうこともあります、演出家はそうですね。よく言われるんです。「なんでこんなに岸田國士戯曲賞受賞者が青年団から続いて出るのか」って*。今もノミネートが続いています。

ただ本当に何にも教えてないんですよ。入団した1年目だけですね。ワークショップとか、レクチャーも結構みっちりやるんですけど。大きいのは、単なるライバル関係とか切磋琢磨じゃなくて、作品のスタイルはバラバラだけれど共通言語をもっているので、お互いが見に行って、打ち上げとか飲み会のときに、相互批評の言葉をもっているんですよ、うちの演出部同士は。

僕にそういうことを習うので(相互批評をするようになる)。それが日本の演劇界に一番足りないもので、基本的に演劇教育がないので皆バラバラでしょ。そこが青年団では曲がりなりにも1本線があるので、多分そこが強かったんじゃないかなと思ってるんです。

*岸田國士戯曲賞は、白水社が主催する新進劇作家の登竜門とされる賞。平田自身は、1995年に『東京ノート』で受賞。また青年団所属としては2008年前田司郎、2010年柴幸男、2011年松井周、2013年岩井秀人、2020年谷賢一(2022年退団)、2022年福名理穂が受賞、2024年も菅原直樹が最終選考に残った。

──アゴラ劇場は今日、夜の公演で閉館になります。先ほど昼の公演の最後に観客に挨拶されたそうですが。

そうですね、ありがとうございますと。ちょっとだけ思い出話もしました。母は公務員で、その後大学の教授になったんですけど、本当に経営が大変だったときに従業員も雇えないから母が出勤前に楽屋のトイレとか掃除してから出勤してたんです。よく父と母が言っていたのは、「楽屋っていうのは俳優さんが唯一ひとりっきりになって涙を流すところだから、ここは綺麗にしなきゃいけないんだ」と。そんなことを話しました。


newsweekjp_20240630095704.png平田オリザ(ひらたおりざ) 1962年東京生まれ。劇作家・演出家・青年団主宰。芸術文化観光専門職大学学長。江原河畔劇場 芸術総監督。豊岡演劇祭フェスティバル・ディレクター。国際基督教大学教養学部卒業。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞、1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演出家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。2019年『日本文学盛衰史』で第22回鶴屋南北戯曲賞受賞。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中