自然をキャンバスに壮大なアートを生み出すランドアーティストたち 生分解性の絵具でサステナブルな活動
フィンランドの森での体験がランドアートへ
デイヴィッドの最初の絵の師は、ストリートアートを牽引してきたプロのアーティストの父。デイヴィッドは高校でも大学でも美術(ファインアート)を学び、ストリートアートにも強い関心をもっていた。大学在学中に、壁画を合法的に描くことができるヘルシンキに滞在し、いたる所で壁に描いた。デイヴィッドはプロのストリートアーティストになろうと決心し、大学を卒業してフィンランドに渡ったことが人生の転機となった。そして、絵の注文を受けたり、ストリートアートのフェスティバルに招待されたりと少しずつキャリアを積み上げいった。
自然を舞台に描き始めたのは、緑あふれるフィンランドという土地が導いてくれた。ある日、森の中の木と木の間に巨大で透明なプラスチックのシートを張り、顔を描いてみた。自分のアートを違う方法で表現できるのではないかと衝撃が走り、その写真を国内のメディアに送ったところ、大々的に報じられたという。その経験が、自然界のエレメントに直接描いてみるという挑戦につながった。2020年に、岩場に妻の顔を描いた最初の大型作品「Ephemeral」を撮影してネット販売したら、瞬く間に100枚以上が売れた。
デイヴィッドは彼独自のアートスタイルによって、日常生活で奇跡的なことが起きるということも伝えようとしている。「新作に取り組むたびに、前作ほどよいものはできないかもと迷う気持ちも浮かびます。そういった葛藤があってもやるのです。自分の中に眠っている力が大自然の空間で引き出されると信じて。その前向きな姿勢が、思いがけない結果を運んでくれると思っています」という彼の言葉には、勇気をもらえる。
2人のドローイングなどの作品は、それぞれのサイトから購入することができる。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com