自然をキャンバスに壮大なアートを生み出すランドアーティストたち 生分解性の絵具でサステナブルな活動
サイープは依頼を受けて描くとともに、自分で場所を探して描くプロジェクトも続けている。その1つは、2019年から始めた「Beyond Walls」シリーズだ。モチーフは、誰かと誰かが組んでいる腕。彼が出会った人たちの腕の写真2千枚から選んでいる。このシリーズで連帯感や博愛の精神を訴えている。第1号作品は、世界難民の日に合わせパリのエッフェル塔の下で描いた。昨夏は日本を訪れ、沖縄、長崎、富士山近郊、東京の4ヵ所で腕を描いた。シリーズは現在、19作品目に達している。
別のシリーズ「Human Story」では、子どもや高齢者をモチーフにしている。コロナ禍に描いた子どもの絵「Beyond Crisis」(2020年作)も、雄大な自然と優しさが溢れるような素朴なタッチが見事に調和している。サイ―プはこのシリーズでも、人は身近な人とも見知らぬ人たちともつながっているというポジティブなメッセージを送った。
「自分の作品が、人々が世界中にあふれる問題に立ち向かう糸口になってくれれば」と語る。
絵が秘境の自然に融合する、デイヴィッド・ポパ
ニューヨーク市で生まれ育ったデイヴィッド・ポパ(David Popa)は、人気急上昇中のランドアーティストだ。21歳でフィンランドに移住し、妻と子どもたちと同国を拠点にしている。デイヴィッドは主に北欧で人があまり訪れない自然の地を探し続け、人物や動物を描いている。秘境の岩や氷の表面が彼の絵に独特な効果を与え、毎回、幻想的な作品が生まれる。絵具は、土、貝殻、木炭などの天然素材で作っている。地面に目印は付けない。ドローンからとらえた動画を手元で見ながら描き進めていく。
最新のプロジェクト「Transcendence」では、生命のサイクルを表現することをコンセプトに、米ユタ州の砂漠で4枚の壁画を制作した。これまでで最大の作品になった。
アクセスしにくい場所を求めるのは湧き上がる冒険心から。また、そこの風景に宿る強いエネルギーを1人でも多くの人とシェアしたいからだという。大自然の生命感は、絵を描くことによって強調されると考えている。先史時代に洞窟に絵を描いていた人たちのように、現代人も、人間と自然とのつながりを身近に感じてほしいという。