最新記事
アート

自然をキャンバスに壮大なアートを生み出すランドアーティストたち 生分解性の絵具でサステナブルな活動

2024年2月6日(火)11時20分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

Beyond Walls

Beyond Walls, Step 10 : Ganvie, 2021 ©Valentin Flauraud for Saype


サイープは依頼を受けて描くとともに、自分で場所を探して描くプロジェクトも続けている。その1つは、2019年から始めた「Beyond Walls」シリーズだ。モチーフは、誰かと誰かが組んでいる腕。彼が出会った人たちの腕の写真2千枚から選んでいる。このシリーズで連帯感や博愛の精神を訴えている。第1号作品は、世界難民の日に合わせパリのエッフェル塔の下で描いた。昨夏は日本を訪れ、沖縄、長崎、富士山近郊、東京の4ヵ所で腕を描いた。シリーズは現在、19作品目に達している。

別のシリーズ「Human Story」では、子どもや高齢者をモチーフにしている。コロナ禍に描いた子どもの絵「Beyond Crisis」(2020年作)も、雄大な自然と優しさが溢れるような素朴なタッチが見事に調和している。サイ―プはこのシリーズでも、人は身近な人とも見知らぬ人たちともつながっているというポジティブなメッセージを送った。

「自分の作品が、人々が世界中にあふれる問題に立ち向かう糸口になってくれれば」と語る。

絵が秘境の自然に融合する、デイヴィッド・ポパ

ニューヨーク市で生まれ育ったデイヴィッド・ポパ(David Popa)は、人気急上昇中のランドアーティストだ。21歳でフィンランドに移住し、妻と子どもたちと同国を拠点にしている。デイヴィッドは主に北欧で人があまり訪れない自然の地を探し続け、人物や動物を描いている。秘境の岩や氷の表面が彼の絵に独特な効果を与え、毎回、幻想的な作品が生まれる。絵具は、土、貝殻、木炭などの天然素材で作っている。地面に目印は付けない。ドローンからとらえた動画を手元で見ながら描き進めていく。

最新のプロジェクト「Transcendence」では、生命のサイクルを表現することをコンセプトに、米ユタ州の砂漠で4枚の壁画を制作した。これまでで最大の作品になった。

アクセスしにくい場所を求めるのは湧き上がる冒険心から。また、そこの風景に宿る強いエネルギーを1人でも多くの人とシェアしたいからだという。大自然の生命感は、絵を描くことによって強調されると考えている。先史時代に洞窟に絵を描いていた人たちのように、現代人も、人間と自然とのつながりを身近に感じてほしいという。

reuter_20240205_164124.jpg

左)Ephemeral, Helsinki, Finland, 2020 ©David Popa、右)Fractured, Ice floats, Finland, 2022 ©David Popa

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中