「同性愛者の神様」と「空飛ぶ女性器」!?...「俳優人生で最大の屈辱」と出演者が語るほどのキテレツ低予算映画『ディックス』とは?
Delightfully Depraved
2人は全く違う環境で育ったが、驚くほどよく似た人生を送っている。2人とも、特権意識と自尊心が膨張した異性愛者白人男性を戯画化したような人物だ。
クレイグは妊婦を押しのけてタクシーに乗り、カフェでは大勢の妊婦たちが並ぶ列の先頭に割り込んで、注文してもいないコーヒーをバリスタから受け取る。
2人は次から次へと性的パートナーの女性を乗り換える(ただし、映画冒頭の字幕にあるように、シャープとジャクソンは同性愛者。字幕では、同性愛者役を演じる異性愛者俳優の「勇気」がたたえられる風潮をちゃかして、今作で同性愛者が異性愛者役を演じた勇気をたたえてみせる)。
生き別れた親を訪ねると
2人の勤務先の会社が合併して、スタリオン演じる上司の下、クレイグとトレバーがついに出会う。2人はバレバレのカツラで変装して入れ替わり、それぞれが生き別れていた親に会いに行く。
しかし、待っていたのは、感動のご対面とは程遠い経験だった。母親のエブリン(マラリー)と父親のハリス(レーン)は並外れた奇人変人だったのだ。
ハリスは、引きこもり状態の隠れ同性愛者で、檻の中で暮らすオムツをはいたしわくちゃの生き物(「下水ボーイズ」と呼んでいる)の世話に命を懸けている。エブリンも引きこもり状態で、万一必要になったときのために、擬人化した自分の女性器をビニール袋に入れて持ち歩く。
マラリーやレーンのようなベテランの喜劇俳優にとっても、ここまでぶっ飛んだ役はそうそう経験できない。2人とも、自分の限界に挑むことを楽しんでいるように見える。
レーン演じるハリスは、ハムが主食の下水ボーイズのために、ハムを口いっぱいに頰張ってくちゃくちゃとかみ、唾液と一緒にボーイズの顔面に吐き出したり、飛行機の中でエブリンの女性器に向かって歌声を披露したりする。
エンドロールの背景で映し出されるメーキング映像の中で、レーンはこの作品への出演を俳優人生で最大の屈辱だと語っている。この言葉には、ちゃめっ気と不承不承の敬意が混ざっているように見える。レーンはトロント国際映画祭の会場には来なかったが、この先のイベントではぜひとも姿を見たいものだ。