拍手と共に失笑も買った「原爆の父」...その「複雑な」人間像は、映画『オッペンハイマー』でどう描かれたか?

A Mind-Blowing Tale

2023年8月2日(水)14時27分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

230808p34_OPH_02.jpg

COURTESY OF UNIVERSAL PICTURES

原爆よりもはるかに威力のある水素爆弾の製造に反対し、全ての大量破壊兵器を国際社会の管理下に置くよう呼びかけた。

そのため核兵器開発の急先鋒だった人物の怒りを買い、冷戦時代の初期に荒れ狂った「赤狩り」のターゲットとなり、ソ連に機密情報を流した疑いで国家機密の取り扱い資格を剥奪されるに至った。

 
 
 

罪悪感と正当化が交錯

とはいえ、オッペンハイマーを「ソ連のスパイ」と決め付けるのは、彼を「平和を愛する殉教者」に仕立てることに劣らずバカげている。

ノーラン監督はいずれの罠にも陥らず、彼の複雑な人となりを──科学の力に魅せられつつ、それがもたらす地獄図を目にして罪悪感にさいなまれた男の紆余曲折の軌跡を描き出す。

彼は科学者として独立した立場を貫こうとしたが、権力に仕えることは拒まなかった。自分の信念にはこだわったが、ほかの事柄にはたいがいどっちつかずの態度を取った。

核開発の中心地となったニューメキシコ州ロスアラモスの南に位置する砂漠で最初の核実験を見守った彼は(映画で描かれるように)「今や私は死となり、世界を破壊する者となった」というヒンドゥー教の聖典『バガバッド・ギーター』の一節を想起した。

自身が開発を率いた核爆弾が広島と長崎を灰塵に帰した後、ハリー・トルーマン米大統領と会談し、「私の手は血塗られています」と言ったのも事実だ。

原爆投下を躊躇なく決断したトルーマンが側近に「あの泣き虫を二度とここに来させるな」と言ったのも事実である(ただし、映画で描かれたように、オッペンハイマーに聞こえるようには言わなかったが)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ベイルート南部空爆 スンニ派武装組織の

ワールド

プーチン氏、民間インフラ攻撃停止提案検討の用意=大

ビジネス

ドイツ政府、今年の経済成長予測をゼロに下方修正=関

ワールド

ガソリン10円引き下げ、夏場に電気・ガス代補助 石
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中