ピクサー史上最悪の映画はこれに決定!新作『マイ・エレメント』の出来はひどい
An Epic Fail for Pixar
火のエレメントのエンバーと水のエレメントのウェイドの恋を観客はいまひとつ応援する気になれない DISNEY/PIXARーSLATE
<ヒット確実な要素をきっちり押さえているのに、『マイ・エレメント』が恐ろしくつまらない理由>
ピクサーも終わったな──。これまで何度この言葉を耳にしてきただろう。だが、その予言はいつも外れてきた。
思えば、最初からそうだった。CG制作会社だったピクサー・アニメーション・スタジオが、ディズニーの呼びかけ(と投資)で初の長編映画を製作することになったとき、脚本の書き直しに費やした期間は3年。「ディズニーはとんでもない会社に投資した」とささやかれたものだ。
ところが、その結果出来上がった作品『トイ・ストーリー』(1995年)は、史上初のフルCGアニメーション映画だっただけでなく、個性豊かなキャラクターと、思わずほろりとさせるストーリーで、大人にも子供にも愛される大ヒット作となった。
以来、「ピクサーも終わったな」と言われるたびに、同社は傑作を発表して私たちを驚かせてきた。だから、がっかりするほどつまらない新作『マイ・エレメント』も、魔法のような傑作が登場する前触れなのかもしれない。
だが、たとえそう考えたとしても、この作品の出来はひどい。『カーズ/クロスロード』(2017年)や『バズ・ライトイヤー』(22年)のように、親会社ディズニーに強いられて仕方なく作った続編という言い訳は通用しない。
また、やはりピーター・ソーン監督が手掛けて大コケした『アーロと少年』(15年)とも事情は異なる。『アーロと少年』はあらゆる年齢層に愛されるピクサー映画としての作品を求める期待には応えられなかったが、実に美しい子供向け映画だった。
つじつまの合わない物語
美しく独創的な物語の舞台に存在する冷酷なルール、周囲の対立を超えて愛し合う2人、現代社会と重なる問題に苦悩する主人公。『マイ・エレメント』は、典型的なピクサー映画の要素をきっちりカバーしているのに、どういうわけか恐ろしくつまらない。
水、火、土、風というエレメント(元素)が共存するエレメント・シティで、正反対のエレメントであるエンバー(火)とウェイド(水)が引かれ合う。触れ合うと蒸気が発生するカップルなのだが、なんだか小学生の恋のようで、まるでワクワクしない。
エンバーの両親は移民で、彼女は父親の期待と自分の夢との間で苦悩するが、これもいまひとつ響かない。とりわけ、22年のピクサー映画『私ときどきレッサーパンダ』が、移民一家の子供の苦悩を絶妙なセンスとユーモアと独創性で描いただけに、『マイ・エレメント』の絶望的なほど漠然とした描写は消化不良だ。
移民であるエンバーの家族は東欧なまりの英語を話し、ユダヤ系であることを示唆しているように見える。ただし、彼らはスパイスの効いた食べ物が大好きで、辛いものを食べられない水のエレメントを笑う。