ピクサー史上最悪の映画はこれに決定!新作『マイ・エレメント』の出来はひどい
An Epic Fail for Pixar
一方、水のエレメントはアメリカの主流派のWASP(アングロサクソン系でプロテスタントの白人)であるとほのめかされているように見える。ただ、お堅いWASPと異なり、彼らは感情を思いのままに表現し、涙が止まらなくなることも少なくない。
土のエレメントと、風のエレメントはどうなのかって? それは全く分からない。物語の舞台を構成する存在として描かれるだけで、物語には全く絡んでこないからだ。重要なのは「違いを受け入れ合う」という寛容のメッセージだから、そのあたりは大目に見ても、まあいい。
だが、『マイ・エレメント』は物語の筋道をなおざりにしすぎだ。さまざまなエピソードはご都合主義的で、つじつまが合わないことが多い。
町の水道検査官のウェイドは、なぜエンバーの父親の店を法令違反と判断するのか。そしてその判断に異議を唱えるエンバーを、どうしてサポートするのか。なぜ2人は、クィディッチ(「ハリー・ポッター」シリーズに出てくるスポーツ)のような奇妙なゲームの見物に行かされるのか。ウェイドの上司はなぜそこでエンバーを許すのか。どれも理由が全く分からない。
回想シーンが頻繁に差し挟まれたり、それまで言及されたことのない重要なキャラクターの言葉が急に引用されたりと、脚本が何度も書き直されたことを示唆する場面も多い。ぎこちないストーリー展開や意味不明なひねり、大きな矛盾も目立つ。
かつてピクサーは、ストーリーを大切にすることで知られた。改訂を重ね、慎重に練られた脚本が、ブレイントラストと呼ばれる脚本家や監督のグループに提示され、欠点や矛盾が容赦なく指摘され、作品の質を高める重要な役割を果たした。
その根底にあったのは「最高の仕上がりだと誰もが納得できる作品でなければ世に出すな」という考え方だ。映画評論家のノエル・マレーは15年、「全てのピクサー映画に共通する特徴の1つは、各要素が徹底的に考え抜かれていることだ。全てのジョークが鋭く、全てのひねりが効果的で、全ての飾りに意味がある」と語ったものだ。
『マイ・エレメント』は、この3点全てにおいて薄っぺらだ。「ピクサーも終わったな」と言うつもりはないが、ピクサー作品に欠かせない要素を全て兼ね備えた作品が、これほど中途半端な出来になったことは残念で仕方がない。
確かに『マイ・エレメント』は、ピクサーの終わりを示唆する作品ではないかもしれない。だが、ピクサー映画を確実に素晴らしいものにしてきた方程式の終わりを示唆している可能性はある。
ELEMENTAL
『マイ・エレメント』
監督/ピーター・ソーン
声の出演/リア・ルイス、マムドゥ・アチー
日本公開は8月4日