一度入ったらもう抜けない! メスが嫌がっても交尾が続く犬独自のロックオン式という生殖進化
かりに交尾途中でメスが嫌がって逃げようとしても、一度膨張した陰茎はそう簡単には抜けない。その結果、交尾姿勢のままオスも一緒について行くことになり、交尾が1時間以上におよぶこともある。大学院生だった時、山陰地方の田んぼの真ん中で、たまたま野犬の交尾を目にしたことがある。そのときもメスは逃げようとしていたのだが、すでにロックオンされていたようで、メスが動くとオスも一緒になって移動せざるを得ない様子だった。
オスもオスで、もはや「逃さないぞ」というよりは、「あれっ、あれあれ。待って待って、抜けないよ」という表情をしていたのが忘れられない。オスにとっても、いざ交尾姿勢に入ってロックオンするとコントロールが効かず、かえって困ってしまうこともあるのかもしれない。
亀頭球は、ロックオン機能だけでなく、精液の逆流を防ぐ役割もある。イヌ以外では、タヌキやコヨーテなどのイヌ科動物も筋海綿体型で亀頭球の陰茎をもつ。
豚の陰茎はメスの子宮に寄り添った優しい形をしている
ブタの陰茎も、独特である。クジラと同じ鯨偶蹄目に属するブタは、基本的には線維質が多い弾性線維型であり、S字状になって体内に収まっている。だが、ブタの陰茎は自由部(陰茎の先端部)がらせん状に回転し、亀頭はない。そのため、「特殊型陰茎」として区別することもある。
なぜこんな形になっているのかというと、メスの子宮頸管が「頸沈」と呼ばれる粘膜のヒダによってらせん状になっていることから、オスの陰茎もこれに合わせた形状をしているのである。メスの子宮がらせん状になることで、精子が外に漏れ出るのを防ぐ効果がある。
豚の生殖器はネジとネジ穴の構造で受精の確率を高める
この粘膜のヒダは、子宮口から縦方向、螺旋方向、そして最後には平坦な横方向のヒダとなっている。さらに、子宮頸管自体は発情期には緊縮し、休止期になると弛緩するという。子宮側でも、陰茎が挿入しやすいよう準備をしていることになる。
このように複雑な膣の形状に合った陰茎を挿入できれば、オスにとっては交尾を成功させる確率を高めることができる。
ネジとネジ穴の構造と同じ原理である。
じつは、ブタというと、獣医業界では、豚丹毒(とんたんどく、人畜共通感染症の一つで細菌による豚の重篤な感染症)や豚コレラ(家畜伝染病の一つで、ウイルスによるブタの感染症)といった具合に、もっぱら病気に関する話題が多くなりがちである。
そんなブタの生殖器に、こんなに驚くべきしくみや工夫が隠されているとは......。産業動物でこのタイプの陰茎と膣をもつのはブタだけである。メスに寄り添った優しい戦略である。