最新記事
動物

一度入ったらもう抜けない! メスが嫌がっても交尾が続く犬独自のロックオン式という生殖進化

2023年7月7日(金)17時05分
田島 木綿子(国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹) *PRESIDENT Onlineからの転載

パンと手を叩く間の一瞬で終わるヤギの交尾を見逃すな

陸上の哺乳類の中にも、クジラと同じ「弾性線維型」の陰茎をもつ動物はたくさんいる。ヤギもその一種である。

ヤギは、ウシ科ヤギ属の動物で、クジラと同じ鯨偶蹄目に分類される。紀元前から家畜として飼育されていた歴史があり、とくに遊牧民の重要な産業動物として、食用の乳や肉、あるいは毛・皮の利用など、さまざまな用途に用いられてきた。

クジラ類とヤギは共通の祖先をもつことから、同じ陰茎型を有するのは想像に難くない。ヤギの他、ウシやヒツジ、ラクダなどの偶蹄類は、そのほとんどが草食動物であるため、野生下ではいつも外敵からの襲撃を警戒しなければならない。

とくに無防備になりがちな交尾中は要注意で、ロマンチックな気分に浸っている場合ではなく、なるべく短時間で交尾を終わらせる必要がある。そこで彼らが獲得した戦略が「一突き型交尾」である。じつはクジラ類は肉食性であるが、この一突き型交尾を選択した。

一突き型交尾では、パンと手を叩くくらい一瞬のうちに交尾が終わる。弾性線維型の陰茎は、前述したように腸から伸びる筋肉(陰茎後引筋)に引っ張られながら、普段は包皮の中に一定の大きさでS字状に折りたたまれた形で収まっている。

それがメスの発情を察知すると、陰茎後引筋が弛緩し、陰茎が瞬時に飛び出す。まさに"一突き"で交尾を終えるのである。これにより、天敵の奇襲も何のそので交尾を完了させることを可能とした。

ヤギのオスがメスにまたがった瞬間、交尾は終わっていた

獣医大学の学生時代、繁殖学の実習でヤギの交尾を観察したことがある。それがいかに一瞬のうちの出来事か、卒業して数十年が経った今でも、級友たちと思い出して話すことがあるくらい印象に残っている。

オスのヤギの生殖器

イラスト=芦野公平 出典=『クジラの歌を聴け』より

何度もいうが、本当に一瞬で終わる。事前に、担当の先生から「あっという間だから見逃すなよ」といわれ、目を見開いて観察していたところ、オスがメスにまたがったと思った瞬間、もう終わっていた。

交尾時間は、約1秒。なんともせっかちな交尾だなあという感想とともに、「これで本当に受精するのかな」と心配になるが、だからこそ、一瞬の交尾でも確実に受精するように、草食動物は弾性線維型の陰茎と一突き型交尾を身につけたのである。

ただし、その一瞬に陰茎がちゃんと膣に入らないことも、ある。男性の方なら想像しただけで悶絶しそうになるかもしれない。ヤギをはじめとする草食動物も、ちゃんと挿入できないと陰茎が曲がってしまったり、痛みのあまりオスが悲鳴をあげたりすることもある。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレ基調指標、10月の刈り込み平均値は前年比2

ワールド

米民主党上院議員、核実験を再開しないようトランプ氏

ビジネス

ノボノルディスクの次世代肥満症薬、中間試験で良好な

ワールド

トランプ氏、オバマケア補助金延長に反対も「何らかの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中