佐渡裕が語る、ピアニスト反田恭平の魅力と世界への道のり
Onward to the World
ヨーロッパの名門オーケストラを何度も指揮してきた佐渡 @TAKASHI IIJIMA
<「ほかのピアニストとは明らかに違う音色を奏でている」――国内外で同じステージに立ち指揮をしてきた佐渡裕にしか語れない、反田恭平の真価とは。本誌「反田恭平現象」特集より>
日本でいま「最もチケットの取れないピアニスト」である反田恭平、28歳。2021年のショパン国際ピアノコンクールで2位に輝いた反田は、なぜこんなにも観客を熱狂させるのか。
本誌7月11日号(7月4日発売)では、「反田恭平現象」を全20ページで特集。2017年の初共演以来、国内外のコンサートで同じステージに立ってきた指揮者の佐渡裕が本誌のインタビューに答え、反田の評価を語ってくれた。
反田君は、ピアニストとして圧倒的な技術力を持っている。繊細な感受性を働かせながら、一音一音を大事にする。その音色が人を惹き付け、人の心を激しく感動させるのだ。
演奏中の舞台で、僕と反田君は直接言葉を交わしているわけではない。なのに、まるで超能力者のようにお互い言いたいことを分かり合えている。なぜ心が通じ合うのか。反田君が音楽の法則を分かっているからだ。
水は必ず高い所から低い所へ流れる。重力に反して、水が下から上に流れることはない。大雨が降って小川にたくさんの水が流れ込めば、激しい急流となる。幅広い川の流れはたいてい穏やかだ。自然界にこうした法則があるように、音楽の世界にも目に見えない法則がある。
その法則を、ショパンやラフマニノフといった音楽家は譜面に記録してきた。記号によって記録された音楽の法則の意味合いを、反田君は驚くほど正確に熟知している。
ただ単にミスタッチを全くせず、まるでサーカスやマジシャンのように超絶技巧で弾くピアニストであれば、今のような異様な人気は出なかったであろう。
音楽の法則に見事に乗っかり、音楽家が言わんとした音色を見事に奏でる。彼が弾くピアノはあまりにも心地良い。ほかのピアニストとは明らかに違う音色を奏でているから、反田恭平は聴く者の心を離さないのだ。
コロナ禍の昨年5月から6月にかけて、反田君と一緒に全国ツアーを回った。新日本フィルハーモニー交響楽団と一緒に彼が弾いたピアノ協奏曲は、ベートーベンの「皇帝」だ。
合計13回の本番を振り返ると、反田君がミスタッチをした記憶はほとんどない。「自分はできる」という圧倒的な自信があるだけでなく、本番までに練習を重ねて完璧に仕上げてくる。なおかつ「ゾーン」に入った状態で最終日まで緊張感を途切れさせない。驚くべき集中力だ。
アンコールの曲も毎回変えてきており、観客へのサービス精神も怠らない。