佐渡裕が語る、ピアニスト反田恭平の魅力と世界への道のり
Onward to the World
反田君は今後ピアノを弾きつつ、指揮者の道を歩むそうだ。2段しかないピアノの譜面とは違い、30段も40段もある膨大な譜面を読み込み、細部にまで神経を張り巡らせながら指揮棒を振る仕事は並大抵ではない。
1989年にフランスのブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した僕にとって、コンクールでの優勝は茨の道の始まりだった。オーケストラに正確に指示を出すのは当然として、高い音楽性を伴っていなければヨーロッパでは相手にされない。
言葉の壁もある。「良くなかった」という評価を下されれば、次は二度と呼ばれない。「まあまあだったな」という指揮者は誰の記憶にも残らないから、これまた次の仕事にはつながらない。厳しい世界だ。
とうとう僕がベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮台に立てたのは、コンクールで優勝した28歳から22年後、50歳になったときのことだった(11年5月)。
反田君にとって、ショパンコンクールは音楽家として世界に羽ばたくための大きなきっかけとなった。コンクール前から、既に日本国内ではチケットが手に入らない状況が続いていたわけだ。次ははっきりと、貪欲に世界を目指してほしい。
反田君は、僕が音楽監督を務めるオーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団と共演し、ウィーンデビューを果たした(20年10月)。今年3月にミュンヘンで開かれたコンサートも成功したと聞く。
音楽家として世界で通用することは既にはっきりしている。オーストリア、ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、アメリカ――どんどん打って出て勝負してほしい。
構成・荒井香織(かおる、ルポライター)