小説家トム・ハンクスが描く、「ちょっと美しすぎる」映画の世界
Tom Hanks, Novelist!
ハリウッドのど真ん中で数十年間「いい人」であり続けるハンクスは、ハリウッドの舞台裏を語るにはいい人すぎるのかもしれない KARWAI TANGーWIREIMAGE/GETTY IMAGES
<舞台は超大作スーパーヒーロー映画の制作現場。ショービジネスの優等生がショービジネスを描いたら...>
「二流のジャーナリストはすぐに、映画がどのように作られるかを説明しようとする」
トム・ハンクスの新作小説で、映画監督のビル・ジョンソンはそう苦言を呈する。彼らは映画が、「月に行って帰ってくる飛行計画のように、箇条書きされた」段階的な手順を踏むと思っているのだ。
映画制作がどのようなものか、ハンクスはよく知っている。月への旅と帰還についても少々知っている。
そんな彼にとって初めての長編となる新作小説『メイキング・オブ・アナザー・メジャー・モーション・ピクチャー・マスターピース』は、映画作りを体系的で予測可能なプロセスとしてではなく、幸せな偶然と不幸な偶然の混沌とした連続として描く。
そのカオスの舵を取るのは、アポロ13号を地球に帰還させた人々のような厳格で素朴なプロフェッショナルたちだ。
今から10年前、ハンクスは友人4人で月を目指す物語のアイデアを思い付いた。既に映画の脚本を執筆したことはあった。
初めて執筆した小説「アラン・ビーン、ほか四名」はニューヨーカー誌に掲載され、2017年には短編集『変わったタイプ』(邦訳・新潮社)が刊行された。これがベストセラーになり、編集者からハリウッドに関する小説を書かないかと提案された。
当初は抵抗を感じていたが、最近のインタビューで、映画制作は「見かけほど簡単ではない」ことを伝えたくなったと語っている。「とても困難で、(携わる)人々は打ちのめされる」
職人たちが魔法を起こす
ハンクスには物書きの才能がある。ただし、鋭い風刺や、奥深くて複雑な登場人物ということではない。魅力的な会話やさりげない造語、ショービジネス(小説の登場人物たちは「ショーというビジネス」と呼ぶ)にまつわる辛辣でインスピレーションに満ちた語りが、彼の持ち味だ。
ショービジネスは、欲望にまみれて注目を浴びたがるドラマ中毒者ではなく、純粋で輝かしい才能を持つ無名の人々のたゆまない努力によってつくられる。それがハンクスの信念かもしれない。
新作小説は架空の超大作映画『ナイトシェード:ファイヤーフォールの旋盤』の舞台裏を描く。映画制作に必要なのは、時間を守ること、悪ふざけをしすぎないこと、セリフを覚え、自分の仕事をして、全力を尽くすこと。