「最後」の意味を最後まで引っ張る、父と娘の「切ない感動のラスト」
The Best Final Ever
だが彼女は、カラムが不安を静めるために旅行に持ってきた瞑想の本の数々には気付かない。彼が裸でベッドに座ってすすり泣くときも、その場にはいない。
このシーンでは、ベッドに座ったカラムの後ろ姿だけが映し出される。どうやらウェルズ監督は、たとえフィクションとしてでも、父の顔に浮かぶ悲しみを描きたくなかったようだ。
そして別れの時が来る。再び映画の冒頭で流れたシーンに戻り、ソフィは搭乗口へ向かう。今度は観客も、ビデオカメラを持っているのが父親であることを知っている。彼が大枚をはたいて買い、休暇の間ずっと回していたカメラ、ソフィにも使い方を教えてやったカメラだ。
最後のワンショットは忘れがたい。そこでは現在と過去、そしてソフィがずっと父親の思い出をしまってきた非現実の境界空間が結ばれる。
20年の歳月を経て、ソフィは親となることの意味を知った(画面が暗転した後、最後に聞こえてくるのは「ママ」と呼ぶ赤ちゃんの声だ)。この先は父と異なる道を歩むことになる。だからその前に父に会いたい。そう、最後に。
AFTERSUN
『aftersun/アフターサン』
監督/シャーロット・ウェルズ
主演/ポール・メスカル、フランキー・コリオ
日本公開は5月26日