「最後」の意味を最後まで引っ張る、父と娘の「切ない感動のラスト」
The Best Final Ever
ソフィが父親へのインタビューを終えて画面がフリーズすると、そこに何かが映り込んでいる。テレビを見ている誰かで、どうやらショートヘアの女性のようだ。映像はそこで唐突に乱れ、ぼやけてしまう──。
それからテープが巻き戻され、後に出てくる印象的なシーンの数々が断片的に映り、次いで切ない映像が飛び込んでくる。空港で搭乗口に向かうソフィをかなり離れた場所から撮った映像だ。
彼女は通路の柱に隠れてはまた顔を出し、最後に大きく手を振る。そこでビデオは止まる。別れを惜しむかのように。これが互いの顔を見る最後だから。
その後はずっと、父と娘が共に過ごした素敵な休暇の映像が続く。船に乗ってスキューバダイビングに向かったり、ディナーの席でいたずらをしたりと心のアルバムに収めておきたいような場面がちりばめられているが、そのたびに映像は予想外の場所に飛ぶ。
例えば、夜遅くにたばこを吸いたくなったカラムがホテルのバルコニーに出る場面。そのときカメラは、暗い室内で休むソフィのシルエットを映し出す。聞こえてくるのは彼女の寝息だけだ。
やがて私たちは、大人になったソフィの姿を初めて目にすることになる。床に敷いた高級そうなラグ(トルコの店でカラムが見つけたけれど買えなかったものと同じだ)を映すカメラが上に移動すると、夜中に起き出したソフィの姿が現れる。そばにいるパートナーが「誕生日おめでとう、ソフィ」と声をかける。
隣の部屋で赤ちゃんが泣いている。ソフィは立ち上がり、様子を見に行く。ここまできて、ようやく私たちは気付かされる。この日は彼女の誕生日で、思い出の映像に出てくる父カラムと同じくらいの年齢になり、同じく親となっているという事実に。
だからこそ彼女は昔の日々を思い返している。でも、そうだとすれば彼女は、あれ以来一度も、父親の顔を見ていないのではないか?
3つの世界がつながる
監督は何度も、カラムに何か恐ろしいことが起きるのではないかという予感を抱かせる。彼はクラクションを鳴らしながら走ってくるバスの前を突っ切ったり、バルコニーの細い手すりの上に立って両腕を空に向かって突き上げたりする。
しかし彼が抱えている危険は肉体的なものではなく、子供に理解できるものでもなかった。ソフィは父が悲しそうなのに気付き、太極拳をする父の動作を「忍者みたい」と笑ってみせたりもする。