軽やかにジャンルを行き来し「音楽の未来」を体現した、坂本龍一の71年
COMPOSER FOR THE AGES
ベルトルッチ監督は坂本に「もっと気持ちを込めてくれ!」と叫び続け、オーケストラの録音中に曲の修正を求めることもあったが、ともあれ完成した『ラストエンペラー』の音楽で、坂本は日本人として初めてアカデミー作曲賞を手にすることになった。
その後、90年代後半の坂本はクラシックの原点に立ち返った。ドビュッシーを思わせる感傷的で繊細な曲想に加え、現代音楽の巨匠ジョン・ケージに倣ってピアノの奥底まで探るような実験的アルバム『BTTB(バック・トゥ・ザ・ベーシック)』を発表。
この時期に録音された「エナジー・フロー」はビタミン剤のCM曲で、日本経済の「失われた10年」に生きる人々の心を癒やし、99年にオリコンの週間シングルチャートで1位になった。
心に響く音楽を深化させた
11年3月に福島第一原発の事故が起きてからは、反原発運動に積極的に加わった。翌年には再結成したYMOも参加するコンサート「NO NUKES」を開催。コンサート前日には首相官邸前での反原発集会に参加し、「一市民としてここに来た」と語り、みんなが自分にできることをやり、声を上げることが大事だと呼びかけた。
坂本は14年に中咽頭癌と診断され、いったん仕事を中断した。しかし苦悩を抱えつつ生きる男を描いた映画『レヴェナント』の仕事は断れずに楽曲を提供。結果としてレオナルド・ディカプリオにアカデミー主演男優賞をもたらした。
17年には8年ぶりのソロアルバム『async』(非同期)を発表。そこには映画『シェルタリング・スカイ』の原作者ポール・ボウルズが、人の死に触れた原作の一節を読み上げる音声も収められた。