最新記事
坂本龍一

軽やかにジャンルを行き来し「音楽の未来」を体現した、坂本龍一の71年

COMPOSER FOR THE AGES

2023年4月19日(水)13時50分
ウィリアム・ロビン(音楽評論家)


ベルトルッチ監督は坂本に「もっと気持ちを込めてくれ!」と叫び続け、オーケストラの録音中に曲の修正を求めることもあったが、ともあれ完成した『ラストエンペラー』の音楽で、坂本は日本人として初めてアカデミー作曲賞を手にすることになった。

その後、90年代後半の坂本はクラシックの原点に立ち返った。ドビュッシーを思わせる感傷的で繊細な曲想に加え、現代音楽の巨匠ジョン・ケージに倣ってピアノの奥底まで探るような実験的アルバム『BTTB(バック・トゥ・ザ・ベーシック)』を発表。

この時期に録音された「エナジー・フロー」はビタミン剤のCM曲で、日本経済の「失われた10年」に生きる人々の心を癒やし、99年にオリコンの週間シングルチャートで1位になった。

心に響く音楽を深化させた

11年3月に福島第一原発の事故が起きてからは、反原発運動に積極的に加わった。翌年には再結成したYMOも参加するコンサート「NO NUKES」を開催。コンサート前日には首相官邸前での反原発集会に参加し、「一市民としてここに来た」と語り、みんなが自分にできることをやり、声を上げることが大事だと呼びかけた。

坂本は14年に中咽頭癌と診断され、いったん仕事を中断した。しかし苦悩を抱えつつ生きる男を描いた映画『レヴェナント』の仕事は断れずに楽曲を提供。結果としてレオナルド・ディカプリオにアカデミー主演男優賞をもたらした。

17年には8年ぶりのソロアルバム『async』(非同期)を発表。そこには映画『シェルタリング・スカイ』の原作者ポール・ボウルズが、人の死に触れた原作の一節を読み上げる音声も収められた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中