人種問題、メンタルヘルス、パワハラ、不倫...映画館の客席で心揺さぶられて大泣きする
Crying at the Movies
トラウマを抱えながら地元の古い映画館で働く中年女性のヒラリー(コールマン)は、スティーブン(ウォード)との出会いを通じて生きる希望を取り戻す ©2022 20TH CENTURY STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
<老朽化した映画館で働く人々の尽きせぬ愛。ヒット作を連発してきた名匠サム・メンデス監督とイギリスの名優たちが放つ自信作『エンパイア・オブ・ライト』の魅力とは?>
イギリスのベテラン俳優コリン・ファースは新作映画『エンパイア・オブ・ライト』で自分が言うせりふの一部に正直、不快感を抱いたという。アカデミー賞に輝いた名匠サム・メンデスが監督・脚本を手がけた本作で、ファースはオリビア・コールマン、マイケル・ウォードと共演した。
物語の舞台は1980年代のイギリスの海辺の町。老朽化した映画館で働く人々の尽きせぬ映画愛と人生の悲喜こもごもを描いたヒューマンドラマで、人種問題、メンタルヘルス、職場でのパワハラ、セクハラ、不倫など、扱うテーマは盛りだくさんだ。
『ブリジット・ジョーンズの日記』などでチャーミングなイギリス人を演じてきたファースは、この作品では部下の女性を性的に食い物にするミスター・エリスを演じる。
映画の始めのほうでエリスがコールマン演じるヒラリーに放つ下品で卑猥な言葉には、ファースのファンもドン引きしそうだ。彼の口からこんなせりふを聞くなんて!
筆者がそう言うと、ファースは「私はそれほど上品な男じゃないさ」と苦笑しつつ、「確かに心躍るせりふじゃなかった」と認めた。初めて脚本を読んだときは、どう演じようか頭を抱えたという。
最近の映画界にはセックスシーンなどで俳優が嫌がる演技を無理強いされないよう、監督と俳優の間で調整役を務めるインティマシー・コーディネーターがいる。今回の撮影でもこうしたプロが立ち会い、ファースもメンデス監督もその存在に救われたという。
「その場面にはちゃんと意味があることが確認され、カメラがどう写すかも細かく説明された。おかげで最初に脚本を読んだときほど強い抵抗感を抱かずに済んだ」