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音楽TikTokの搾取に異議あり──音楽に及ぼす悪影響
Music and TikTok
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PHOTO ILLUSTRATION BY DADO RUVICーREUTERS
<バズる動画に使われて再生回数を増やすことがアーティストにとってベストとは思えない>
最大10分までの短編動画投稿アプリTikTok(ティックトック)の躍進は2022年も続き、年間の広告収入は100億ドルに達したもようだ。投稿される動画の多くはミュージックビデオ仕立て。アプリ内に、無料で使える多数の楽曲と動画作成ツールが用意されているからだ。
運よくTikTokの動画が拡散されれば、そこに使われた楽曲の人気も上がる。実際、TikTok動画をきっかけにヒットチャートを駆け上がった曲はたくさんある。
だから音楽業界にはTikTokを21世紀の「新しいラジオ」と評する向きもある。その昔、テレビCMで使われた楽曲がやたらヒットした時代に、CMが「新しいラジオ」と呼ばれたのと同じだ。
しかしラジオには、曲をかけてもらうためにDJに金を払っているとか、大手のレコード会社が放送局に圧力をかけているとかの噂や疑惑が、昔も今も付きまとう。たぶんTikTokも同じだろう。
いい例がアメリカ人ユーザー、ネイサン・アポダカの場合だ。2020年のこと、彼はスケートボードに乗ってジュースを飲みながらフリートウッド・マックの名曲「ドリームス」(1977年)を口パクで歌う自分の動画をTikTokで投稿した。
この動画はネット上で話題になり、再生回数はうなぎ上り。すると「ドリームス」自体のダウンロード数やストリーミング再生回数も激増し、動画中でアポダカが飲んでいたジュースの売り上げもぐっと伸びた。喜んだメーカーはこの青年に、トラック1台分のジュースを贈ったという。
楽曲のダウンロード数や配信数が増えたので、フリートウッド・マックの手にする著作権使用料も増えた。ただしTikTokから直接、お金をもらえるわけではない。
一方、今やレコード会社は新曲のプロモーション戦略にTikTokを組み込んでいる。TikTokのインフルエンサーに自社の所属アーティストの楽曲を聴いてもらうオンライン・イベントも開催し、どうすればTikTok動画の再生回数を増やせるかを探っている。
きっかけはリル・ナズ・Xのヒット曲「オールド・タウン・ロード」(19年)だろう。あれは、いわゆるチャレンジ系動画のBGMに使われたことで人気が爆発した。
もちろん、楽曲と動画をセットで売り込む手法は以前からある。元祖は音楽専門ケーブルテレビのMTVで、始まったのは40年ほど前だ。MTVの人気が高まるにつれ、レコード会社もアーティストもミュージック・ビデオの制作に力を入れるようになった。
音楽と広告の関係が変化
ただしMTVと違って、TikTokではアーティストの権利が尊重されていない。現状では、TikTokは3大レコード会社(ソニー、ワーナー、ユニバーサル)とインディー系の著作権管理団体マーリンと契約し、楽曲の使用に関して定額の料金を支払っているだけだ。
そこでTikTokは昨年3月、アーティストが自分で楽曲をアップロードし、著作権使用料を得ることができるプラットフォーム「サウンドオン」を立ち上げた。親会社のバイトダンス(北京字節跳動科技)が自前のストリーミングサービス「TikTokミュージック」を立ち上げるという噂もある。しかし、中国の会社が欧米勢(スポティファイなど)並みの料金を払うとは考えにくい。実際、中国のテンセント・ミュージックがストリーミング1回につき支払っている金額は0.00015ドルで、スポティファイの払う金額の3.4%にすぎない。
しかも、TikTokで人気になる(あるいは推奨される)楽曲は限られている。TikTokのアルゴリズムは楽曲の芸術性より、動画のチャレンジ性やダンスの激しさ、メッセージの単純性で楽曲を選別し、ユーザーに推奨することが多い。
運よく政治的なメッセージを含むプロテスト・ソングなどが推奨されたとしても、その主旨は伝わりにくい。たいていはオリジナルのメッセージと無縁なダンスや商品の映像とセットにされてしまうからだ。
ラジオの音楽番組では、ポップスと広告が共存共栄の関係を築いてきた。しかしTikTokでは、広告的な映像によって楽曲本来のメッセージが薄められ、ゆがめられる恐れがある。つまり、音楽がアートではなく、他人が好き勝手に使えるコンテンツとして扱われてしまう。
動画を投稿する人にとっては、確かに便利な仕組みだ。でも、それでいいのか? それで何か、大切なものが失われてしまうことはないだろうか。音楽の聴き方・買い方が変わるのは時代の流れだが、その行き着く先が常にベストだとは限らない。
TikTokが台頭する一方で、ラジオの公共放送やローカルなFM局の経営は苦しい。このままだとインディー系のバンドや、必ずしも大衆的とは言えないジャンルの楽曲の居場所はなくなる。
いろんなサウンド、いろんなメッセージを聴けるメディア環境こそベストだと、筆者は思う。特定の商業メディアが過大な力を持つ状況には、懸念を抱かざるを得ない。
Bethany Klein, Professor of Media and Communication, University of Leeds
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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