最新記事

漫画

戦国武将マンガの金字塔『花の慶次』、原哲夫はジャンプ連載時「苦しかった記憶しかない」

2023年1月21日(土)18時00分
写真:宇田川 淳 文:高野智宏 ※Pen Onlineより転載

penbusho20230121-hananokeiji-3.jpg

戦国武将の義と負けの美学を学び、心の拠りどころとした武士道の心得――原さんが『花の慶次』の連載執筆時に心の拠りどころとしたのが、山本常朝の口伝集『葉隠』。「慶次もここに記されたような信念で生きているから、傾いても筋が通っているのです」

「これも隆先生から薦められました。先生は戦争に召集された際、戦地で『葉隠』を読むことで、心の平静を保っていたとか。書かれているのは武士の心得ですが、それが私の心にも刺さったのです。たとえば、苦しく逃げ出したくなるような場でも、あえて火中へ飛び込むことで活路が開けるなど、もがきながら描き続けていた自分にも、心の拠りどころとなりました。また、慶次も当然そうした行動規範で生きてきた武士でしょうし、原作には記されていない慶次の思考や行動を理解して描く上でも、大いに役立ちました」

戦場での豪快な武勇や忍術使いとの戦いなど、虚実が入り混じる見どころ満載の本作だが、自身が「一番の山場」と断言するのが、聚楽第(じゅらくてい)での秀吉との謁見の場面。

ここで慶次は、平伏するも正面を向いているのは髷(まげ)だけで、顔は横を向くという反忠誠の意を示し、さらには、あろうことか尻の赤い袴を履いて猿踊りを披露するという、暗殺を試みつつ傾いてみせるシーンが描かれている。

「連載開始当初から、このシーンをひとつのピークに設定していました。ここへたどり着く前に打ち切りになったら、隆先生にも申し訳がたたないと必死でした」

原さんが本作で真に描きたかったのは、慶次が信念を貫き傾く理由。それは、戦国武将が重んじた「義」の心であり、武士ならではの美学であるという。

「慶次の生き方はある意味、負けの美学であり、負け方にも美意識を見出すものです。連載当時アンケートが振るわなかったのは、少年誌の若い読者にその心持ちが伝わらなかったのかもしれません」

本作には伊達政宗に真田幸村、直江兼続と、名だたる武将たちも登場し、戦国ファンを楽しませてくれている。連載当時からコアなファンはいたが、再注目されたのは、連載終了から10年ほど経って遊技機のキャラクターに採用されたことがきっかけだ。

「現在もシリーズ作『花の慶次 かぶき旅』を連載しています。かつて撒いた種が、時を経て芽を出し、花開いたという感じでしょうか」

豪快に傾き、義に生きる前田慶次。胸がすくようなその活劇を、今後も読み続けたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、3月は50割り込む 関税受

ビジネス

米2月求人件数、19万件減少 関税懸念で労働需要抑

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中