最新記事

フィギュアスケート

フィギュアファン歴30年の作家も驚く「羽生結弦が見せた神対応」

2022年12月2日(金)07時59分
茜灯里(作家、科学ジャーナリスト)


手紙は、便箋3枚にみっちりと手書きされていた。「昔から応援してくれてありがとうございます」「昔のように対応できなくてごめんなさい」「今は練習を頑張っています」と、現状の説明とファンへの想いが丁寧に記されている。

読んでいて、泣けてきた。真摯に言葉を紡いで、一文字ずつしたためて、どれだけ時間をかけたのだろうか。私は男女ジャンル問わず、フィギュアスケート選手全体を幅広く応援するタイプだが、目の前の彼女に対しては「あなたは羽生選手だけを応援してほしい」と思ってしまった。

栄光の日々とこれから

ライブビューイングでは、最後の演目となるアンコールの「パリの散歩道」の後に、挨拶を映した。画面の羽生選手は「みなさんのために頑張っていく」と語った。

私は、今でもたまに「この稀有な選手をアマチュア界に留めるためには、何が必要だったのだろうか」と考える。PCS(演技構成点)で、体操競技のように「10点満点の壁」を取り払えばよかったのだろうか。満点が決まっていると10点が要求する演技は年々変わり、どうしても他の選手との相対評価になりがちだ。

しかし、プロに転向しても、羽生選手はそれまで以上にアスリートだった。「プロローグ」では、シーズン中に試合に臨む選手のように身体ができあがっていて、4回転ジャンプもスピンの切れも良い。

過去の競技プログラムのステップは今のほうが進化しているほどで、10年前の衣装もサイズ直しせずに着こなしている。「試合がなくなったから、これからは好きなものをいっぱい食べて、ゆっくりして」と思っていた自分が恥ずかしくなる。

ファンの声を聞きながら、ショーを作り上げていく。演技で自分の生き様を見せて、力をくれたファンに恩返しをする。羽生選手にとっては、栄光に包まれたアマチュア時代がプロローグに向けた助走期間で、今、やっと最もやりたかったことに着手できたのかもしれない。

奇跡的に、八戸公演のチケットは入手できた。羽生結弦選手は横浜公演から1カ月を経て、さらに成長した姿を見せてくれるはずだ。しっかりと彼のスケートを目に焼き付け、メッセージを受け取りたいと思う。


※羽生結弦さんは、プロ転向後も「選手と呼んでほしい」と話しているため、本記事では選手の呼称を使いました。



【公式動画】『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』

 『羽生結弦 アマチュア時代 全記録
 CCCメディアハウス[編]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インド競争委、米アップルの調査報告書留保要請を却下

ビジネス

減税や関税実現が優先事項─米財務長官候補ベッセント

ビジネス

米SEC、制裁金など課徴金額が過去最高に 24会計

ビジネス

メルクの抗ぜんそく薬、米FDAが脳への影響を確認
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中