最新記事
フィギュアスケート

咀嚼し、言語化し、言葉を選りすぐる──言葉のプロが「若」と慕う、羽生結弦の発信力

2022年11月11日(金)08時02分
緒方健二(短大生・元朝日新聞編集委員)
羽生結弦

こうした活動のほかにも若は震災被災者のため、人知れずさまざまなことをしておられると聞き及んでおります。ご自身の影響力の大きさを誇ることなく、あくまで目立たず、謙虚に自然に行使できる若はまだ27歳。ただ馬齢を重ねたのみの当方は恥じ入るしかありませぬ。(緒方氏談)『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』126頁より ⓒ時事

<2008年にテレビで釘付けになって以来、羽生結弦に注目しているという元朝日新聞事件記者。咀嚼して言語化する、選び抜かれた言葉の力と、他者への気遣い、そして魅力とは?>

若を慕いて──羽生結弦さんとの出会い

当方は羽生結弦さんを『若』と勝手に呼んで慕い申し上げる者でございます。羽生さんが上杉謙信公を題材にしたドラマ曲「天と地と」を演技の曲にお選びになったことに由来します。

謙信公および、上杉家を家老などとして支えた直江兼続公を尊敬している当方は、いつしか、羽生さんを上杉家の「お殿様=若」、畏れ多くも己を「兼続公=爺や」になぞらえるようになりました。

羽生結弦さんの存在を初めて知ったのは、東京都内の飲食店で流れていたテレビニュースでした。2008年11月、全日本ジュニア選手権で史上最年少の13歳で優勝したときのことです。

当時、当方は朝日新聞で事件全般を担当する編集委員として、日本で目立ち始めた一部外国人による犯罪実態をえぐろうと国内外で準備を進めていました。日本で悪さを繰り返す海外犯罪組織の一員と会う段取りを苦労の末に整え、面会を約束した場所でした。

テレビ画面には細くて、愛嬌のある表情で次々と技を決める少年が映っていました。ジャンプやステップなど競技の技術的なことはさっぱりわかりません。ただ「目にたいそう力と光がある子だな」とミミガーをつまみに紹興酒の熱燗をなめながら思いました。取材相手は結局現れず、羽生さんを知ったことが最大の収穫でした。

そこから羽生さんの快進撃が始まり、翌2009年のジュニアグランプリファイナルも史上最年少の14歳で制覇しました。私の14歳当時といえば「ジャネット・リンさんに会いたいなあ。一緒に滑ってみてえなあ」とぼーっとなるだけのガキでした。なんたる違いか。

その後、2010年の世界ジュニア選手権優勝、2012年初出場の世界選手権銅メダル、2014年ソチ五輪金メダルと世界の頂点に駆け上がる軌跡を追ううちに、当方より30歳以上も年若の羽生結弦さんに魅了されていたのでした。

強面の元事件記者が涙する羽生結弦さんという存在

自己紹介が遅れました。緒方健二と申します。短期大学保育学科に通っています。2022年4月に入学した1年生です。

朝日新聞は古巣です。2021年まで30数年間、記者稼業をしていました。前職も含むと、ざっと40年間にわたって取材や記事の執筆に明け暮れました。

さような半端者が、全宇宙に熱烈なファンを擁する羽生結弦さんについて書くなどという分不相応な暴挙が許されるのか。執筆のご依頼をいただいてからしばらく呻吟、熟考いたしました。

然れども、文章を書いて長く食ってきた身としては、「衷心より尊敬する人について書くという稀有な機会を逃しちゃならねえ。終生後悔するぜ」との思いがつのり、かような仕儀と相成りました。

 『羽生結弦 アマチュア時代 全記録
 CCCメディアハウス[編]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-米政府、ウクライナ支援の見積もり大幅減額─関

ビジネス

米小売売上高、3月1.4%増 自動車関税引き上げ前

ワールド

トランプ大統領「自身も出席」、日本と関税・軍事支援

ワールド

イランのウラン濃縮の権利は交渉の余地なし=外相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中