プロ転向を表明した、羽生結弦の「第2章」がいよいよ開演
A New Freedom To Shine
五輪史上初の4Aチャレンジは、73センチの大跳躍だった。転倒こそしたものの、姿勢はギリギリまで引き締められ、回転不足なく片足着氷して4Aが認定されることに最後までこだわるものだった。結果は4位。4Aに挑戦したフリーが、羽生の選手として最後の演技となった。
羽生の競技生活で惜しまれるのは、使用曲が決して多くはなかったことだ。これは「パリの散歩道」「バラード第1番ト短調」「SEIMEI」など彼の技術、表現力、個性にぴったりとマッチした常勝プログラムと言えるものがあり、複数のシーズンで「ここぞ」というタイミングで使用されたことにも起因する。
羽生は周囲が期待する「羽生結弦」であるために、何よりも自分の美学のために、並々ならぬ努力を続けてきた。常勝を望まれ、多数の応援を受けていることを痛いほど分かっており、まさに身を削って期待に応え続けてきた。確実に勝てる曲から離れることは難しかったのかもしれない。
常連のアイスショー『ファンタジー・オン・アイス』で、羽生は音楽家とコラボしてさまざまな曲で滑り、多彩な表現で観客を魅了している。プロに転向してもアスリートとして真摯にフィギュアスケートに向き合い、4Aにも引き続き挑戦していくという羽生には、競技生活を終えるデメリットはないのだろう。
競技会での他人との争いの束縛から自由になった羽生が、表現者としてさらに飛翔することは間違いない。
[筆者]
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専攻卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)、獣医師。朝日新聞記者、国際馬術連盟登録獣医師などを経て、現在、大学教員。フィギュアスケートは毎年10試合ほど現地観戦し、採点法などについて学会発表多数。第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。デビュー作『馬疫』(光文社)を2021年2月に上梓。
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