最新記事

スポーツ

プロ転向を表明した、羽生結弦の「第2章」がいよいよ開演

A New Freedom To Shine

2022年7月27日(水)12時41分
茜 灯里(作家、科学ジャーナリスト)

ソチ後はけがと戦い続け

羽生を象徴する「絶対王者」という呼称が登場したのもこの頃だ。15年NHK杯優勝の際に、羽生が「絶対王者だぞと自分に言い聞かせてやりました」と語ったことが由来とされる。これは「五輪チャンピオンの絶対王者だ」と自称したと捉えられがちだが、羽生は後に「絶対、王者になるぞ」と自分を鼓舞する言葉だったと語っている。

絶対王者の呼称はファンやマスコミの間に広まり、多くの場合、五輪金の後も競技を続行し「羽生結弦」であることにストイックに向き合う姿に王者の風格を読み取って、好意的に使われた。しかし競技成績だけにこだわる人は、羽生が試合に負けると「もはや絶対王者ではない」と揶揄し、本人やファンを苦しめた。

ソチ後の4年間、羽生はフェルナンデスと世界王者を競う。史上初の300点超えで優勝した15年NHK杯と、逆転優勝した17年世界選手権の演技が印象的だが、一方でけがと戦い続けた時期でもあった。

18年の平昌五輪には前年からの右足負傷が完治しないまま臨むことになったが、66年ぶりの連覇を遂げる。この偉業がたたえられ、個人としては最年少の23歳6カ月で国民栄誉賞が授与された。

羽生は今回の会見で「平昌五輪で引退しようと思っていたが、四大陸選手権の金や4回転半にこだわり続けた結果北京まで続いた」と語っている。

19年スケートカナダでは、総合点の自己最高を更新して優勝。勢いは止まらず、翌年の四大陸で優勝して悲願のスーパースラムを達成した。しかし4Aは「1000回以上挑んで、まだ跳べてない」と昨年4月に語っている。

平昌後のフィギュア界は、多種多数の4回転ジャンプを演技に組み込むことが必須の時代を迎える。羽生は高難度ジャンプの実施と自分が目指す表現者としてのスケートの両立に悩みつつ、18年のルール変更でリセットされた世界記録をさらに7回更新した。

羽生の北京五輪シーズンは、五輪選考会を兼ねる前年末の全日本が初試合となった。ショートを文句なしの出来栄えで終え、フリーで宣言どおり4Aにチャレンジ。両足着氷かつダウングレード(1/2以上の回転不足)で3回転アクセル扱いとなったが、73センチの大跳躍を見せた。羽生は優勝し、五輪代表に選ばれた。

北京五輪本番ではショートで氷上の穴に引っ掛かり、4回転サルコウが0点となる不運で8位発進。1位のネイサン・チェンと18.82点の差がついた。メダルを重視するなら4Aへの挑戦はリスクが高すぎたかもしれない。しかし羽生は自分しかできないジャンプにこだわった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、9月前月比+0.3%・前年比+3.0% 

ビジネス

中国人民銀、成長支援へ金融政策を調整 通貨の安定維

ビジネス

スイス中銀、リオ・ティント株売却 資源採取産業から

ワールド

ドイツ外相の中国訪問延期、会談の調整つかず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中