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人生は長距離走、走ることは自らと向き合うこと──走らない人の胸も打つウルトラトレイル女王の哲学

リジー・ホーカー『人生を走る――ウルトラトレイル女王の哲学』

2010年のUTMBを走るリジー・ホーカー ©Damiano Levati(『人生を走る――ウルトラトレイル女王の哲学』より)

<トレイルランニングが人気だが、なぜ人は過酷な山道を走るのか。「ウルトラトレイル女王」ことリジー・ホーカーは、自分の走りを巡礼や修行になぞらえる>

毎年8月、ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(略称「UTMB」)という大会がヨーロッパで開催される。アルプスの名峰、標高4808メートルのモンブランを1周する約170キロメートルの山道(トレイル)を走る、過酷なレースだ。

平坦な道であっても信じられないほどの距離なのに、山道を170キロも走るなんて正気じゃない――そんなふうに思う人は多いかもしれない。だが日本でも最近、トレイルランニングの人気は高まっており、「トレイルランニング」を冠した大会の数も増えている。

UTMBはその最高峰の大会。ちなみに日本でも、ウルトラトレイル・マウントフジという姉妹大会が毎年あり、今年も4月下旬に富士山で開催予定だ。

人はなぜ、走ることに魅了されるのか。それも、苛烈な山岳地帯を170キロも――。

モンブランのUTMBで女性として5回の優勝を果たしたほか、100キロメートル走、24時間走、スパルタスロン等、数々の長距離レースを制した「女王」がいる。リジー・ホーカー、1973年、イギリス生まれ。彼女が自らの体験や思索をつづったのが、『人生を走る――ウルトラトレイル女王の哲学』(筆者訳、草思社)である。

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2008年のUTMB、ゴールラインへ向かうホーカー ©The North Face Archive(『人生を走る――ウルトラトレイル女王の哲学』より)

幼い頃から山が、そして走ることが大好きだったホーカーは、雑誌でたまたまUTMBのことを知り、博士課程修了後の休暇を山で過ごしたいというごく軽い動機で参加する。たいした経験も本格的な装備もないまま走るが、思いがけず女性第1位でゴール。ここから彼女のランナーとしてのキャリアが始まる。

ホーカーを駆り立てるのは、優勝したい、記録を塗り替えたいという野心ではない。その心をとらえるのはむしろ、大自然の中を走ることで味わえる自由、そして自らの限界への挑戦だ。

彼女は自分の走りを巡礼や修行になぞらえる。彼女にとって、走ることは自らと向き合うことなのだ。

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アマ・ダブラムを背にヒマラヤの「天空」を走る ©Alex Treadway(『人生を走る――ウルトラトレイル女王の哲学』より)

スポンサーを得て長距離ランナーとして活躍しながらも、ホーカーは常に「自分はなぜ走るのだろうか」と問わずにはいられない。

その答えを探るべく彼女が選んだ方法は、エベレスト・ベースキャンプからカトマンドゥまで、約320キロの厳しい道のりを走ることだった。悪天候や疲労に悩まされながらも、友人たちのあたたかいサポートを得て走り抜く。

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