チェチェン・ロシアの同性愛弾圧を告発するためにディープフェイクを使うのは許されるか
「チェチェンに同性愛者は存在しない」
チェチェンの支配者であるカディロフは米メディアのインタビューに「チェチェンに同性愛者は存在しない」と断言する。自らと違うものへの迫害のもっとも苛烈なものはむき出しの敵意ではなく、「いま存在していること」そのものの否定だという哲学者ハンナ・アーレントの言葉が脳裏をよぎる。
物語は眼をそむけたくなるような記録映像を挟みながら進行していく。登場人物たちのたどる道もまた必ずしもハッピーエンドではない。生まれ持った属性が罪だとされ、自らの祖国から、あるいは身内からさえも暴力を受け疎外される人たちは、チェチェンだけにいるわけではない。ディープフェイクのような技術を必要としなくなる社会がいつ訪れるのかとうんざりすることも事実だが、せめて何が起こっているかは知っておきたい。彼らが「いまだかつて存在していなかった」ことにされないために。