「4回転アクセル初認定」羽生結弦のジャンプが世界一美しい理由
A HISTORIC JUMP
羽生の技術あってこその挑戦
羽生のジャンプの美しさは、①高さと幅がある、②空中で回り切って余裕を持って着氷する、③空中での姿勢が真っすぐで、着氷時の姿勢も伸びやか、④助走が短く、着氷後もスピードが落ちないことにある。これらの特長は、GOEで加点を得られるだけでなく、羽生が4回転アクセルへの挑戦を現実的に考えられた要因にもなったはずだ。
①と②は、ジャンプの滞空時間が長いことを示している。滞空時間は跳躍の高さに依存する。例えば2019年世界選手権ショートの3回転アクセルを見ると、羽生は跳躍高が69センチで滞空時間は0.75秒だった。チェンも決して低くはないが、跳躍高が60センチで滞空時間は0.58秒だった。
ジャンプで跳躍高が高いと、離氷時の速度を無理に上げなくても飛距離(幅)を得られるので、助走を短くしたり直前まで独創的な振付を行ったりできる。さらに空中での姿勢が真っすぐでぶれないと、体の回転半径が小さくなって無駄がなくなり、着氷後もスピードが落ちにくくなる。
すなわち4回転アクセルは高い跳躍力を可能とする筋力と、無駄のない動きを身に付けている羽生だからこそ挑戦できたジャンプと言える。実際に、昨年末の全日本選手権で4回転アクセルに実戦で初めて挑戦した時は、両足着氷かつダウングレード(1/2以上の回転不足)で3回転アクセル扱いとなったが、73センチの大跳躍を見せた。
チェンは今年1月にインターナショナル・フィギュアスケーティング誌で4回転アクセルについてインタビューを受け、けがのリスクや3回転アクセルと比べて採点のうまみがないことを挙げて、習得には消極的な姿勢を見せた。
とはいえ、世界初の4回転アクセル成功者となり、フィギュア史に名を残したいと考える者も少なくない。
北京五輪に出場したキーガン・メッシングは、2018年に練習用補助具のハーネスを使って4回転アクセルを跳ぶ動画をSNSに投稿。3年前から5回転ジャンプに取り組むダニエル・グラスルは最近、4回転アクセルの練習も始めた。
今年の全米選手権2位で次世代エースと目される17歳のイリヤ・マリニンも、4回転アクセルの習得に興味があるという。
羽生以外で4回転アクセル成功に最も近いのは、アルトゥール・ドミトリエフだろう。2018年にISU公認試合のロシア杯で挑戦し、ダウングレードの判定で認定されなかったが、今年1月の全米選手権では国内試合とはいえアンダーローテーション(1/4以上1/2未満の回転不足)の判定で4回転アクセルが認定された。