「4回転アクセル初認定」羽生結弦のジャンプが世界一美しい理由
A HISTORIC JUMP
4回転アクセル「初認定」への大跳躍
2年以上4回転アクセルに取り組んできた羽生が、ISU公認試合で世界初の成功者に確実になるには残された時間は多くはない。北京五輪は、羽生が4回転アクセルに挑戦する絶好の機会だった。
本番では、ショートの最初のジャンプで羽生は氷上の穴に引っかかり、4回転サルコウが1回転になって点数がゼロとなる不運があった。
2本目の4回転トウループ-3回転トウループの連続ジャンプは、同じ構成の全日本の時よりも4回転トウループが7センチ高かった。3回転トウループでは全日本とは異なり、GOEを得やすい両手を上げる跳び方にした。このジャンプは必ず成功させる、勝負を諦めずに少しでも点をもぎ取ろうという気持ちの表れだろう。
3本目の3回転アクセルも難なく跳んだ。ミスは最低限に抑えられたが、1位のチェンは羽生が持つショート世界最高得点を更新して113.97点を獲得。95.15点で8位の羽生は、チェンに18.82点の差をつけられた。
逆転することが極めて難しい状況は、フリーの冒頭でリスクの高い4回転アクセルを跳ぶ挑戦をやりやすくしただろう。73センチの大跳躍は転倒こそしたものの、回転不足なく片足着氷して4回転アクセルと認定されることに最後までこだわるものだった。
バンクーバー五輪代表の小塚崇彦は「(着氷のために)空中に跳んでいないといけない時間は、あと0.03秒くらい」と指摘した。
2本目の4回転サルコウでわずかな回転不足が認められたが、その後は順調に演技した羽生は、フリーではチェン、鍵山優真に続く3位、総合4位となった。
試合後のインタビューで「4回転半への挑戦は続くか」と尋ねられた羽生は「ちょっと考えたい。それくらい、今回、やり切っている」と答えた。
狭義でのジャンプ成功とは、回転不足がなくGOEでマイナスにならないことだ。羽生が世界選手権で再び4回転アクセルに挑戦し、完璧なジャンプを披露することを期待したい。
(注:ジャンプの動作解析は30fpsの競技映像を用いた独自研究。フレーム数や撮影アングルの問題等により、ice:stats(Qoncept)やI-Scope(フジテレビ)の分析結果と一致しない場合もある)
[筆者]
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専攻卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)、獣医師。朝日新聞記者、国際馬術連盟登録獣医師などを経て、現在、大学教員。フィギュアスケートは毎年10試合ほど現地観戦し、採点法などについて学会発表多数。第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。デビュー作『馬疫』(光文社)を2021年2月に上梓。
2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」
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