人種も国籍も超えて熱狂を生む大谷翔平こそ、新時代のアメリカンヒーローだ
AN “ALL-AMERICAN” HERO
選手たちも同じだ。大谷のチームメイトで強打者のマイク・トラウトは「こんなの見たことない。すご過ぎるし、人間としても素晴らしい」と評した。ニューヨーク・メッツのマーカス・ストローマン投手は大谷を「生きた神話的レジェンド」と呼び、ニューヨーク・ヤンキースの元投手C・C・サバシアは「自分の知る限り最高の野球選手」と絶賛してみせた。
野球担当の記者たちも、今シーズンの大谷は「史上最高」で「前代未聞、この活躍を再現できるのは大谷だけだ」などと書き立てている。
そんなスーパースターの大谷が、驚くほど謙虚で無欲に見えることにも感嘆の声が尽きない。彼はフィールドにごみを見つけたら、必ず拾う。折れたバットはバットボーイに手渡しする。バスで敵地へ移動する際には、人気ラテンポップ曲「デスパシート」をカラオケで歌う気さくな面もある。
大谷はいつだって礼儀正しく、誰にでも分け隔てなく接する。こうした美徳は、大谷を育てた日本社会の功績と言うべきかもしれない。アメリカ人が日本を訪れると、まず例外なく現地の人の礼儀正しさや慎み深さに感銘を受ける。そういう場所で育ったから、今の大谷がある。
言うまでもないが、MLBでは何十年も前から日本人の選手が活躍している。殿堂入り確実のイチローを筆頭に、松井秀喜や野茂英雄、そして私の好きな松坂大輔などだ。しかし彼らの時代と今とでは、アメリカ社会にも大きな違いがある。
イチローがシアトル・マリナーズに入団した2001年当時、アジア系アメリカ人の数は1200万人前後だった。イチローもその後継者たちも、その才能ゆえに球界ではスターになれたが、その国籍と人種ゆえにアメリカ社会の一員とは見なされなかった。しかし今、アジア系アメリカ人は約2300万人に達している。アジア系もアメリカ社会の立派な一員だ。
時代は変わった。今は白人の多くが、民族的・人種的な多様化の進行を脅威と感じている。ドナルド・トランプ前大統領の中国敵視や人種的偏見のせいで、アジア系アメリカ人に対するヘイトクライムが激増しているのも事実だ。しかし全体として見れば、みんな「アメリカン」という言葉の意味を広げようとしている。
7月13日のオールスター戦の前にはテレビの人気スポーツコメンテーターが、通訳を必要とする大谷にはMLBの「顔」となる資格がないと語った。これにはメディアもファンも猛反発した。国籍や人種で大谷の業績を評価するのは「アメリカンじゃない」、選手の評価は技量と実績、そして人柄だけで決めるべきだと。