『イカゲーム』の悪夢が世界をここまで虜にする理由
ENJOYING THE GAME
設定はシンプル。主人公の中年男ソン・ギフン(イ・ジョンジェ)は借金取りに袋だたきにされ、競馬で当てたカネをスリに盗まれるという散々な一日の終わりに、地下鉄の駅で怪しい男に声を掛けられ、メンコ遊びに誘われる。
終わると男はスケールの大きなゲームに出場しないかと、ギフンに持ち掛ける。賞金は何と456億ウォン(約44億円)にもなると言う。
話に乗ったギフンは孤島の施設に連れて行かれ、「だるまさんが転んだ」や綱引きのような昔ながらの子供のゲームに参加することになる。勝てば次のゲームに進めるが、敗者はショッキングピンクのジャンプスーツに身を包みマスクで顔を隠した正体不明の警備員たちに、その場で容赦なく殺される。
ギフンは多額の借金があるのにろくに働かず、酒浸りで、老母の貯金まで競馬につぎ込むギャンブル依存症。悪いところを挙げれば切りがないが、最大の欠点は人が良すぎることだ。
ゲームのライバルとなる幼なじみで元エリート証券マンのチョ・サンウ(パク・ヘス)に言わせれば、ギフンは他人を大事にしすぎる。この世の中において過剰な優しさは、アルコールやギャンブル依存と同等の悪癖にほかならない。
ギフンは時代に取り残された男だ。もともとは親孝行で、義理堅く、友情に厚い性格だが、そうした資質があだとなって社会では変わり者と見なされ、爪はじきにされている。
長年勤めた自動車工場から突然リストラされ、経営側の横暴に抗議しようとストライキに参加した10年前から、ギフンの転落は決まっていた。ギフンは職を失ったばかりか目の前で機動隊に同僚を半殺しにされて心に傷を負い、妻にも去られてしまったのだ。
紆余曲折を経てギフンはゲームに勝ち残るが、参加者はどんどん脱落してゆく。ドラマはその過程を追いながら、簡単には答えの出ない根本的な疑問を突き付ける。
すなわち人間は魂と品位を保ったまま、資本主義がつくり上げた血も涙もない競争社会で戦い続けることができるのか。
これは言うまでもなく、新自由主義の影響で格差が拡大しつつある社会ならば、どこでも当てはまる問い掛けだ。
見えてくる韓国の厳しい現実
『イカゲーム』は不条理ミステリーである一方で、韓国を自殺率の高さと出生率の低さで世界有数の国たらしめている残酷な現実からも目をそらさない。借金返済のためならリスクがあってもゲームに参加しようという、追い詰められた人々が少なからずいるという描写で。