最新記事

韓国ドラマ

『イカゲーム』の悪夢が世界をここまで虜にする理由

ENJOYING THE GAME

2021年11月9日(火)18時45分
キム・ギョンヒョン(脚本家、カリフォルニア大学アーバイン校教授)

magSR20211109enjoyningthegame-3.jpg

ギフンたちが挑むのは「だるまさんが転んだ」や綱引き、ビー玉遊びといった子供の遊びを基にした死のゲーム。勝ち残れば大富豪になれるが負ければ容赦なく殺される。共に戦った仲間との間には時に絆も生まれるが、一緒に生き残ることはできない EVERETT COLLECTION/AFLO

設定はシンプル。主人公の中年男ソン・ギフン(イ・ジョンジェ)は借金取りに袋だたきにされ、競馬で当てたカネをスリに盗まれるという散々な一日の終わりに、地下鉄の駅で怪しい男に声を掛けられ、メンコ遊びに誘われる。

終わると男はスケールの大きなゲームに出場しないかと、ギフンに持ち掛ける。賞金は何と456億ウォン(約44億円)にもなると言う。

話に乗ったギフンは孤島の施設に連れて行かれ、「だるまさんが転んだ」や綱引きのような昔ながらの子供のゲームに参加することになる。勝てば次のゲームに進めるが、敗者はショッキングピンクのジャンプスーツに身を包みマスクで顔を隠した正体不明の警備員たちに、その場で容赦なく殺される。

ギフンは多額の借金があるのにろくに働かず、酒浸りで、老母の貯金まで競馬につぎ込むギャンブル依存症。悪いところを挙げれば切りがないが、最大の欠点は人が良すぎることだ。

ゲームのライバルとなる幼なじみで元エリート証券マンのチョ・サンウ(パク・ヘス)に言わせれば、ギフンは他人を大事にしすぎる。この世の中において過剰な優しさは、アルコールやギャンブル依存と同等の悪癖にほかならない。

ギフンは時代に取り残された男だ。もともとは親孝行で、義理堅く、友情に厚い性格だが、そうした資質があだとなって社会では変わり者と見なされ、爪はじきにされている。

長年勤めた自動車工場から突然リストラされ、経営側の横暴に抗議しようとストライキに参加した10年前から、ギフンの転落は決まっていた。ギフンは職を失ったばかりか目の前で機動隊に同僚を半殺しにされて心に傷を負い、妻にも去られてしまったのだ。

紆余曲折を経てギフンはゲームに勝ち残るが、参加者はどんどん脱落してゆく。ドラマはその過程を追いながら、簡単には答えの出ない根本的な疑問を突き付ける。

すなわち人間は魂と品位を保ったまま、資本主義がつくり上げた血も涙もない競争社会で戦い続けることができるのか。

これは言うまでもなく、新自由主義の影響で格差が拡大しつつある社会ならば、どこでも当てはまる問い掛けだ。

見えてくる韓国の厳しい現実

『イカゲーム』は不条理ミステリーである一方で、韓国を自殺率の高さと出生率の低さで世界有数の国たらしめている残酷な現実からも目をそらさない。借金返済のためならリスクがあってもゲームに参加しようという、追い詰められた人々が少なからずいるという描写で。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国3月製造業PMIは50.5に上昇、1年ぶり高水

ビジネス

鉱工業生産2月は4カ月ぶり上昇、基調は弱く「一進一

ビジネス

午前の日経平均は大幅続落、米株安など警戒 一時15

ワールド

ハマスへの攻撃続けながら交渉している=イスラエル首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中