最新記事

アート

文化財の保存と公開、そのジレンマをデジタルで解決した『巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界- 』展の凄さ

2021年8月11日(水)17時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
『巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界- 』展

新たな美術展の姿となりうる巨大映像展。その迫力と、拡大してこそ見える細部の美を堪能したい。9月9日まで大手町三井ホールで開催

<いままでにない迫力満点の絵画鑑賞体験を提供するデジタルアート展が開催中。そのダイナミズムに注目が集まりがちだが、美術館や博物館が長らく抱えていた「矛盾」を解消しうる技術を採用している>

日本画の代表ともいえる浮世絵や金屏風、そして金襖絵の数々を、巨大スクリーンに映し出すデジタルアート展『巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界- 』が、東京・大手町三井ホールにて、7月16日から開催されている。

解説シアターで作品の見るべきポイントをナレーションとともに紹介された後、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』や歌川広重の『東海道五拾三次』、俵屋宗達と尾形光琳が描いたふたつの『風神雷神図屏風』、伊藤若冲の『仙人掌群鶏図』といった江戸期を代表する美術作品が、縦7m×横45mの3面ワイドスクリーンに映し出され、いままでにない迫力満点の絵画鑑賞体験となるだろう。

その作品ラインナップは国宝や重要文化財を含め計42点で、隔日でプログラムが入れ替わる。

また、巨大映像とはべつに、『冨嶽三十六景』と『東海道五拾三次』のうち58作品を12台の大型4Kモニターで次々と映し出す『Digital北斎×広重コーナー』も見どころのひとつだ。

音楽とのコラボレーションやCG演出もあって、そのダイナミズムに注目が集まりがちだが、それだけが本展の主旨ではない。

絵師の緻密な技術をダイレクトに伝えるためでもある。そして、その肝となった技術が、アルステクネ社が開発した独自のDTIP(超高品位3次元質感記録処理技術)だ。

浮世絵の摺りによる微細な凹凸や和紙の繊維の質感を立体的に復元

DTIPによって、さまざまな角度から数種の光を当てて得た内側の構造や反射の情報から成る3次元データを2次元に再構築。浮世絵の摺りによる微細な凹凸や和紙の繊維の質感、金屏風と金襖絵の金箔・切箔・金砂子などの素材の違いまでも立体的に復元した。

加えて、20億画素という超高解像度によって、一見しただけではわかりにくい、狩野邦信による『源氏物語図屏風』内で女性が着る振袖の細かな紋様や、作者不詳の作品『平家物語図屏風』に出てくる多数の人物の表情ひとつひとつを、巨大化することで明らかにしている。

絵師たちやそれに関わる摺師や彫師も、自分たちの技がここまで詳らかにされるとは想像しなかっただろう。しかし、拡大されたことで、よりいっそう光る彼らの超絶技巧と、粗の一切ない作品へのこだわりに圧倒されるはずだ。

godaieshi20210811-2.jpg

葛飾北斎の『冨嶽三十六景』より『凱風快晴』。北斎がこだわった凹凸による表現や、和紙の地合いが見て取れる

また、このデジタルアート展は、新たな美術展の姿をも提示する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中