最新記事

アート

文化財の保存と公開、そのジレンマをデジタルで解決した『巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界- 』展の凄さ

2021年8月11日(水)17時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

期間に縛られず、開催場所も問わないデジタルリマスターの技術

美術館や博物館は相反する二つのミッションをもつ。ひとつは文化財の保存。そしてもうひとつが文化財を市民に公開することによる教育的な面だ。

しかし、公開するということは、文化財がある程度光にさらされ、人の動きによって温湿度調節が一定でない場所に持ち込まれることを意味する。

これを避けるために、アクリル板を隔てて間近で見られないなど、これまでは鑑賞の制約を余儀なくされていた。

とくに館外へ持ち出して巡回するような特別展は、運搬に損傷のリスクを伴うだけでなく、昨年からの新型コロナウイルス感染症蔓延の状況下では、客の密集回避のため、開催自体が減少する可能性もあるだろう。

この公開と保管のジレンマの解決策となりうるのがデジタルリマスターだ。

現物は暗室で保管しつつも、作品をモニターで展示。データと設備さえあれば期間に縛られず、それもミュージアムに限らない複数箇所で同時に展開することができるため、自然と市民は文化財に触れる機会が増す。もちろんそれも作品の質感までわかるような高度なデジタルリマスター技術があってこそだ。

監修を務めた日本美術史家で岡田美術館の小林忠館長は、「巨大映像での感動的な体験が、美術館や収蔵先に足を運ぶきっかけになってほしい」と語っている。

godaieshi20210811-3.jpg

歌川広重の『東海道五拾三次』より『日本橋 朝之景』。巨大映像で映し出されると、賑やかな江戸の市井にタイムトリップしたよう

巨大映像展は9月9日まで東京で上映後、大阪でも12月3日より堂島リバーフォーラムでも開催。また、第2弾、第3弾も企画中だという。

読者諸兄も絵画鑑賞の経験の有無にかかわらず、ぜひ新しいアート体験をしつつ、江戸時代の絵師の匠の技を目撃してほしい。


巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界-
会期:2021年7月16日(金) ~ 9月9日(木) 
開館時間:10:30~19:30(最終入館は閉館の60分前まで)
会場:大手町三井ホール (東京都千代田区大手町1-2-1 Otemachi One 3F)
観覧料:一般2,000円/大学生・専門学校生1,500円/中学生・高校生1,000円(全て税込み)
※満70歳以上、小学生以下、障がい者の方(付添者は原則1名まで)は入場無料
公式サイト:https://www.faaj.art/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中